はじめに

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2014年9月6日土曜日

子ノタマワク
越中富山は毒消し元祖 唐との交易由来にて

えぇー、昔から論語読みの論語知らずということを申します。中には、論語読まずの論語知らずなどという方もいて、世間を憚っております。え? ハイ。私なんぞはその最たるもので、真に、その、あの・・・。今は町内で論語なぞ持ちだすと、鼻白まれることになりかねませんが、昔は長屋などでも論語の話が結構なされたようです。

八「ちわ!おぉ相変わらず暇そうじゃぁござんせんか」
隠「おぉ、八っぁんか、マアお上がり」
八「昨日、寄席へ行きました」
隠「おぉ、結構なことだな、一人でかい」
八「へい、厩火事てぇ話がありまして、孔子さまが出てまいりやした。時々ご隠居が、孔子さまがノタウチ回ったとか言っていたので、今日はご高説を聞こうということで・・」
隠「ノタウチ回ったじゃあなく、ノタマワクだ。厩火事といえば、八っぁんの・・八っぁんと言ってもお前じゃあない・・・ややこしいな。その髪結いの女房がモロコシだの麹町のサルだの言うあれだな」
八「そう、そぉでした。モロコシには偉い人がいて、この国にはサルがいる。その猿が実に情けない」
隠「厩が火事になって大事にしていた馬が焼け死んだ。だが孔子さまは馬のことは一言も言わず、弟子たちの様子だけをお尋ねになった。サルは茶碗が割れなかったかを心配し、奥方が怪我をしないかなぞ思いもしなかった」
八「その通り。なかなか、よく勉強したナ。」
隠「おほめ頂いてありがとう。馬の噺は孔子さまの話された事をまとめた論語に載っておる。」
八「大層詳しそうな様子だが、孔子さまとはお知り合いかなんかで?」
隠「カラカッチャアいけない。でもな、まんざら縁が無い訳ではない、ワシが通った学校は時習館といって、論語からとった名前がついている」
八「何ですか?あぁ、そこの同級生で?」
隠「二千五百年ばかりも昔の人だ。ワシはそんなに年寄りじゃあない。学而時習之・・学んで時にこれを習ろう・・としている」
八「時には勉強位はしろと、うるさい学校で」
隠「・・・まぁいいや。それから社会人になった時に入った寮が里仁寮と言ったナ。これも論語からとっている」
八「とっている!早えぇ話がパクッたナ」
隠「パクッたと言われると返答に困るなぁ。まぁ、ゆっくり話してもパクッたと言われりゃあ、そうだヨ」
八「大いに反省してもらいたい。今あの大国のやっているパクリをとやかく言えた義理じゃあねぇや。こちらの方がパクリにかけちゃぁ先進国だ。オホン!」
隠「ご尤もで。恐れ入りました。八公様」
八「素直に歴史認識をきちんとすれば、噺の続きを聞いても好いゾ」
隠「いやはや。歴史認識ねぇ。歴史認識と言えば、厩火事の載っている郷党篇に最近の出来事を孔子さまが予測したようなことが書いてある」
八「へーぇ、やっぱり偉い人なんだ。二千年も後の事をお見通しだったんだ」
隠「そう。孔子さまはスエて味の変ったのや、魚のくずれたのや、肉の腐ったのは、決して口にされない。色のわるいもの、匂いのわるいものも口にされない。煮加減のよくないものも口にされない」
八「随分ゴチャゴチャと言ってますが、早ぇ話が、古くて腐りかけた物とか落っことした物は食わないってことですか」
隠「そう。それと、季節はずれのものは口にされない。主君のお祭りに奉仕して、戴いた供物の肉は宵越しにならないうちに人にわけられる。家の祭の肉は三日以内に処分し、三日を過ぎると口にされない
八「さすがは大国。そんな昔から賞味期限の考えがあったんだ」
隠「そう、ちゃんと弟子たちに食品の衛生管理について説いているのだ」
八「ご隠居。少しおかしくありませんか」
隠「何が?」
八「孔子さまはそういったものは食わなかったって言っているだけでしょう」
隠「うん?」
八「食うなとか、きちんとしろとか言っている訳じゃぁないでしょう」
隠「孔子さまは自分が実践して、弟子にお示しになることもある」
八「判った。福喜食品ってのが何千年も前にあったということだ!」
隠「福喜食品?何だ?・・・・あ、あれか」
八「そう。あれ。腐った肉やら・・他にも毒入りのクイモノ」
隠「ウゥン。そう言われりゃぁ、お前さんの言う通りかもしれんな」
八「そういうことは、さすが歴史大国。福喜食品は老舗中の老舗なんだ。これぞ悠久の大国と言うやつで」
隠「そうよなぁ。八っぁんは鋭いな」
八「うっふん!まんざらでもねぇって事よ」
隠「お!そっくりかえったな」
八「おかしな会社があっただけじゃあない。偉い、エライお方の前に堂々と腐ったものが出されて、腐っているのに気づいた孔子さまは食わなかった」
隠「食わなかった」
八「他の連中は食っちまったのか?」
隠「死ぬことはないと思っていたのかもしれない」
八「孔子さまってえのは、聖人君子とされているんでしょう?おかしいヨ。弟子たちが食べて腹痛起こすのは気にもしなかったんだ。自分だけ食わないってのは気に入らねぇ。食品衛生法なんぞはなかったんで?その食事を準備した奴らを懲らしめなくてはいけない」
隠「八っぁん!そうはいかない」
八「何で?」
隠「孔子さまはこう言われている。秩序を維持するのに法律一点張りでは、道徳観が地に落ち、法律に触れさえしなければ何をしても好いと、民はそれから逃れる方法を編み出すといわれている」
八「脱法ドラッグの元祖か?」
隠「旨い事を言う」
八「いえいえ、これしきの事」
隠「徳と礼を持ってすればそうはならないとナ」
八「トクとレイですか。損得を考え、旨くやるためにはお上にお礼をする。賄賂の元祖ですネ」
隠「困ったな。賄賂なんぞは悪いことで、孔子さまがお勧めになる訳が無かろうが」
八「お勧めにならなくても、損得勘定と賄賂は常識のようですよ。虎と蠅、おまけにテロが一杯だそうで。お上は、ここ一番、そいつらを叩き潰すなどとキツイことやってますヨ。孔子様の教えはどうなっちゃいました?」
隠「うぅぅぅん」
八「ウイグルもチベットも秩序を維持するためにコテンパンに刑罰を科されています。現代中国の偉い人は論語を学んでいないんで?」
隠「うぅぅぅん。そう暑くなりなさんな。八っぁん少し時間をやろうよ」
八「時間が立てば論語を勉強するの?」
隠「そう、今の国家主席は習近平だ」
八「それがどうした?」
隠「好く見てみろ。近々習う平にご容赦と書くではないか」
八「・・・く、苦しいぃぃぃぃ・・・・・」

毒を盛らなくても、傷めつけられるようで。テケテンテンテン・・・・・・お後が宜しくなりますように。(2014.9)