はじめに

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2015年4月6日月曜日

竹取物語

なよたけの節ほどのこともなく世を過ぎて迎待つ身の春まだ寒し

えぇー、世の中、揉め事の種は尽きないようで。それでも、揉め事が少ないと困る商売の方もいるようで。どの位の揉め事があればよろしいのかとも思います。
「・・大きな事件や事故が無いのは・・、新聞作りにはなかなかの大敵です。・・そんなピンチを救ってくれたのが・・」とし「・・二十年前の惨事・・テロ・・」という書き方で「「地下鉄サリン事件」を特集する事でピンチを救われた」と中日新聞の編集日誌にありました。大層正直な方で、事件の少ない日に「地下鉄サリン事件」で救われるという、小噺に近い発想をされているようです。私なんぞはもっとコマク、セコイことで間に合わせております。少しばかり長めの小噺にお付き合いのほどをお願いいたします。

八「ちわ!おぉ相変わらず暇そうじゃぁござんせんか」
隠「おぉ、八っぁんか、マアお上がり」
八「近頃評判になっているかぐや姫。ご存知ですか?」
隠「かぐや姫?!あぁ知っているとも」
八「さすがご隠居、ご存知で」
隠「昔は結構ヒット曲を出しておった。また復活したという訳か」
八「ヒット曲?復活?そりゃぁ、復活と言えば復活ですが、ヒット曲とは何です?」
隠「ヒット曲はヒット曲だよ。神田川なんぞが有名だ」
八「・?・・。あ、違う、チガウ。家具屋のお姫様でかぐや姫!」
隠「家具屋のお姫様?」
八「そう、ソウ。あの家具屋さんの揉め事。親子喧嘩」
隠「あぁ、あれか。知っているよ。娘の方が勝ったそうだぞ。・・オホン」
八「お!オホンと来たね。何か言いたいんで?」
隠「かぐや姫とくりゃあ、親子の揉め事の元祖だ。親子の揉め事でかぐや姫が絡むのは、八っぁんにしちゃぁ、好い思い付きだ」
八「好い思い付き?」
隠「オホン! そもそもかぐや姫というのは竹取物語に出てくる昔話だ」
八「そのくらいのことは知ってますヨ。何か親子で揉めていましたっけ」
隠「オホン。今は昔・・」
八「来たね」
隠「竹取の翁という爺さんがいたナ。竹をとって加工をし、家具として売っていた。家具屋だ。その爺さんが竹の中から見つけて、なよたけのがかぐや姫と名付けた」
八「ハハぁん。家具屋仕掛けで来たな」
隠「それからてぇもの、竹の中から黄金が見つかったりしたナ」
八「失せ物が持ち主に戻るってぇのが、我が国の古来からの美徳。その爺ちゃん、自分のものにしちまったんじゃぁ、拾得物横領になりませんか」
隠「フーム。まぁ硬いことは抜きにして・・
八「もしかして、かぐや姫が持参した養育費かなんかじゃあないんですか?」
隠「そう。そうかもしれん。・・いやいや違う。これはかぐや姫の知恵で儲けたことを言っておるんじゃ」
八「ズルイナぁ。俺が好いことを思いつくと、後出しでそれらしいことを言う」
隠「爺さんは、竹取の翁だ。裏の藪からとった竹で籠程度のものを売って細々と暮らしておった」
八「細々と・・。貧乏だったんだ。金が欲しかったんだ」
隠「かぐや姫を我が子と思い、慈しんで育てた。長じたかぐや姫が貧乏を見かねて、助言をしたな」
八「助言を?」
隠「かぐや姫は月から追放されて地球へ来た。月は先進的な星だ」
八「そりゃそうでしょう。地球まで迎えの宇宙船を出せる程の技術力を持っていたそうじゃぁありませんか」
隠「そこで、かぐや姫は竹籠のような一般的日用雑貨でなく、茶杓や花活けなどを作り、上層階級に限定販売する事を提案したのだ。茶が渡来して貴人たちが茶道具を欲しがった。爺さんの作品は引く手あまたになり、結構な値段で売れたナ」
八「ははん、それが会員制高級志向路線の始めだな。娘の方がそれに反対したんじゃあ?」
隠「それは、今は今。この話は、今は昔じゃて」
八「まぁいいや。それで爺さんは金持ちになった」
隠「そう。上層階級とのつながりもでき、かぐや姫に懸想する奴が出てきた」
八「じゃぁ、揉め事の一つもなく目出度てぇ話じゃあござんせんか。話が違いますヨ」
隠「金ができ、姫に懸想する貴人が沢山出てきた頃から、揉め事が始まった」
八「目出度てぇ、好い話じゃあないんですか」
隠「そう。旨く事が運べば、爺さんには上つ方と親戚になれ、地位も金も望みしだい」
八「成程」
隠「ところが、姫には事情があって、そんな話は受ける訳にはいかない。嫁にいけの、厭のと揉め始めた」
八「嫁にいけなんぞは、今ならセクハラだ。揉めてもしょうが無い」
隠「八っぁん。今じゃぁ、親が子に嫁に行けと言うのもそうなるのかい」
八「知らねぇ」
隠「爺さんは、なんとかしようてんで、姫を懸命になだめすかしてみた」
八「脅しはしなかった?」
隠「脅すとどうなる」
八「パワハラだ」
隠「かぐや姫も一方的な主張を繰り返せなくなって、条件交渉をしたな」
八「偉い。力に頼らず、話し合いで事を進める」
隠「しかしその条件と言うのが、所謂無理難題というやつだ。纏める気のない場合にもちだして相手を困らせる手管だ」
八「今でも盛んに使われています」
隠「世の中にありもしないものを持ってきたら、嫁になる。言われた相手は、そんなものは手に入れようがないから、捏造した」
八「捏造でうまくいったのですか?」
隠「それらしいものを持ってはいったのだが、姫の鑑定眼は鋭く、ことごとく見破られた」
八「三千円!偽物です!本物は・・・・。いけませんのイケマセン」
隠「それじゃあなんでも鑑定団だな」
八「全滅しちまったんで?」
隠「危うく姫が騙されそうになったのが一つあった」
八「偽物を上手に作る悪い輩がいたんだ。何ですか?」
隠「庫持の皇子というのが、蓬莱山にある銀の根、金の茎、真珠の実で出来た木の枝なる物を持ち帰った」
八「原料と概要が判っているのだから、造れそうですね」
隠「その通り!皇子は一流の職人を集めて造らせたのだ。最高級品質の代物だ。世界に誇る日本の職人技だ」
八「それでもバレそうな気がするナ」
隠「バレタ、バレタ。職人たちが手間賃をよこせと請求書を持って来たんだ」
八「製作費や、お給料の類を払って無かったの?ブラック企業のさきがけだ。内部告発てぇやつだ」
隠「お蔭で姫は助かったヨ」
八「ようござんした」
隠「その後、翁が帝にまで手を広げたので、お父ちゃんいい加減にしときゃぁ!てんで、怒った姫は帰国手続きをとった」
八「もうしばらく滞在延長をって、申し出たと聞きましたが」
隠「そりゃぁ恰好をつけただけだ。ほとほと爺さんのやり口に嫌気がさして、形を整えて帰り支度をしたんだ」
八「はぁ、成程。ところで姫は何で地球に来たんで?」
隠「不始末を仕出かした罰とされている」
八「罰で地球へ?」
隠「彼らからすると地球の世界は汚くよごれた所なのだ」
八「わが国はゴミ箱が無くても町にゴミが無い、綺麗な所とされてます」
隠「地上には所構わずゴミを捨て、子供にウンコまでさせる所もある」
八「PMナントかで向こうが見えないってやつですか?」
隠「ウン」
八「ウンとは駄洒落っ気は相変わらずだ」
隠「汚いところというのは、ウンだけじゃあない。爺さんの金と地位への執着やそのためには娘の気持ちなんぞ考えもしない品性だ」
八「そうだ、ソウダ。貴人だって嘘はつくわ、紛い物は作らせるわ」
隠「そう。汚いのはゴミだけじゃあない。民度が低いってやつだ」
八「月の人はそれを承知で、姫をよこしたんで」
隠「世の中綺麗事ばかりじゃあない。親子の諍いまで経験させた」
八「なんてぇ暗い昔話だ。今は昔か? 姫は怒って月に帰ってしまった。それで、爺さんはどうなったの?」
隠「八っあん。爺さんは姫の父親だ。哀しくて、悲しくて、大いに反省したが、暫くして家具屋はつぶれた。トウサンの憂き目にあった」
八「フヌ!?そうか、洒落たナ。俺にも言わせておくんなさい。月だけに、丸く納まってばかりはいられネエ」
ハイ。いいえ、いいえ。倒産は、今は今のお話ではございません。今は昔のお話しでございます。お後が宜しいようで。テケテンテンテン・・・・・。

(2015.4)