はじめに

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2019年8月6日火曜日

豚コレラ


豚コレラ



トントン豚コロリと隣組、あれこれ面倒殺処分

              詰め込められたり埋めたり



私、生まれも育ちも美濃の山奥です。姓はトンコ、名はレラ。人呼んで豚コレラと発します。

人様には豚コレラなどという名前で呼ばれていますが、私たちは美濃の山奥で暮らしていました。暮らしていたのは美濃に住む猪の体の中でございます。猪と私たちは、それぞれに分をわきまえて仲良く共生していました。少し面はゆい点はございます。仲良く共生というのは私どもの一方的な思い込みで、猪にしてみれば何のことやら、まぁ何にも感じていないことかもしれません。猪にはあまり恩恵はなかったと思います。彼らは、元気に山の中を駆け巡り、地の中、木下の食べ物をとり、それなりに平和に暮らしていたのでございます。

人間は私たちのような形態のものを常在ウィルスと呼んでいるようです。平和に共生していると言いましたが、常在菌、常在ウィルスの生態は守っています。猪が年取ってきて弱ると、私たちは活動を始めます。誤解されるのは嫌ですから、あえて申し上げておきます。私たちが活動を始めるのは、決して弱いもの虐めのためではありません。弱った猪に元気を戻して貰おうという応援のためなのです。只、この手の活動には、跳ね上がり者がいくらかいるのはつきものです。仲間の気持ちを考えもしないで、いい気になってここぞとばかりに暴れ回る輩がいるのは本当に困ります。そいつらによっていわゆる豚コレラという病を発症してしまいます。このことで重症化した猪は死んでしまいます。ある意味では、自然界での高齢者対策でもあります。

昔は猟師が鉄砲を持って猪を撃ちに山に分け入ってきました。時にはトンコ・レラを発症して死んでいるやつを見つけたかもしれません。新しいやつは担いで持って帰ったでしょう。私たちは人間の体内では、なぜかしら元気が出ません。ですからその猪を食べたからってどうってことはありませんでした。相性が悪いのです。

どのくらい前だったでしょうか、山が荒れ木の実はならず、雨も少なかったのか、ミミズなども少なくなって彼ら猪の生活は厳しいものになってしまいました。もちろん私たちトンコは猪におんぶに抱っこのご身分ですから、けっこう長い間異常に気づかなかったのでございます。猪たちは餌を探して山を下りてみました。なんとそこには、いろいろな食べ物が一面にあるではありませんか。次第に多くの猪たちが降りてくるようになりました。そこは人間の住む領域です。人間はそこを里とか里山とか読んでいました。猪が里山にやってきて暫くすると、人間は柵を作り、鉄砲や爆竹で脅かし始めました。猪にとっては、それは怖いものでした。

ところが、かなり時が立っていたと思いますが、人間が滅多に来なくなりました。訳が分かりません。作物は申し訳程度に植えられていて、周囲に張られた柵に触れると痺れがはしるような仕掛けがあるところもあり、猪はびびりました。ストレスがたまり、疲労がたまりました。猪が疲れてくると、私たちは困ります。元気になっておくれ!みんなで応援をしました。応援が足りない。数を増やしました。数が増えすぎて、猪が参ってしまうようなことも起きました。帯状疱疹などという人間の病気も、ご本人が疲れると救っていたウィルスが応援合戦を繰り広げ、やり過ぎで痛みが出るというではありませんか。私たちトンコ・レラの場合も同じ様な関係なのでしょう。すみません。知りもしないこと、いい加減な物言いをして。そんなこともあって、年取った猪だけでなく、若い威勢のいい猪も発症して死んでしまうようなことが起きました。

いつの頃からか、美濃の里で人間が豚を飼うようになりました。以前は間違って里に猪が下りても、豚なんぞはいませんでした。その豚小屋のすぐ湧きでくたばったのもでました。餌を求めて歩き回っているうちに、豚の餌を失敬したり、ついでに製品を置いてくるやつもいました。

そんなこともあって私たちは豚の体に入ることに成功してしまいました。新天地を得たつもりでした。栄養満点の豚がゴロゴロ居るではありませんか。ところが、道を踏み外してしまったようです。元気のいい、栄養満点の豚。実際、豚の中に入ってみると住み心地は満点でした。新居です。皆が皆、元気溌剌、はしゃぎ回りました。これがいけなかったのかもしれません。ようやく落ち着いたと思った途端に、豚が次々と死んでしまったのです。私たちも少しばかりはしゃぎすぎたのは否めません。それにしても、若いくせになんと豚の意気地のないことでしょう。何でも、抗体とかいう物を持っていないため、私たちが少しはしゃいだだけで、くたばってしまうのだそうです。

ワクチンというものがあるそうです。人間はこれを猪に食べさせて、豚コレラの広がりを抑えるんだそうです。何匹の猪が食べるんでしょうか。私たちとしてはなんとか頑張って、すり抜けてほしいと思っています。

罹患して困るのは豚のはずです。養豚を生業にしている人間も大層困っていると聞きます。豚にワクチンを!猪は我が故里です。ここを住めないようにされると、私たちは絶滅危惧種になります。ワクチンを猪にとはどういうことなんでしょうか。ワクチンを食べると、私たちは猪に住めなくなるのでしょうか。それとも、猪も私たちトンコ・レラも生き延びられWin-Winの関係が築きあげられるのでしょうか。そうあってほしいものです。

人間は「豚」とか「豚野郎」と言うときは、相手を見下しているとのことです。猪の方は「猪武者」などと使われるそうですが、前掛かりの強さは小馬鹿にされていますが、元気の良さも表しているんだそうです。ですから、私たちは「豚コレラ」と呼ばれるのは愉快ではございません。差別用語です。適切な、なにがしかの名前は必要なようです。そこで「トンコ・レラ」と名乗って、人間様にはそう呼んでいただきたいと思っている次第です。カタカナ語の方が格好いいという風評もあります。始めにお断りすべきかとは思いましたが、人間が豚コレラと呼んでいる物をトンコ・レラとさせていただいた次第です。生意気というお言葉は甘受いたします。尚、アフリカ豚コレラというのが、中国東北部で流行っていて、とても強いそうです。私たちトンコ・レラのパクりでも何でもなく、全く関係ありません。お間違いなきように。

正直なところ、豚には偏見があります。狭いところで不自由な暮らしをしているせいか、酷くヤワです。私たちが住み着くとすぐにくたばってしまいます。中には抵抗しているやつもいるのですが、殺処分という凄惨な目に遭います。いつまで経っても私たちに免疫を持ち共生できる豚になりません。誠に不都合です。仮に免疫ができても、人間に豚野郎などと差別用語として使われる輩には住み着きたくありません。是非、猪にお願いしたいものです。

豚に侵入してしまったために、危うく絶滅の危機にさらされています。

トンコ・レラです。トンコリタです。



それでは小噺を一つ。



Made in Japan



ソウルの日本大使館前で反日アピールが行われていた。何個かの段ボール箱が並べられ、それぞれに日本の会社のロゴや製品名が描かれていた。人々はそれらを思いきり踏んづけて潰し、気勢を上げた。中の一つが何回踏んづけても潰れなかった。一人の男が不審に思って箱を開けてみて、思わずつぶやいた。

「ハズキルーペだ。さすがMade in Japan !



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