はじめに

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2017年12月6日水曜日

カチカチ山異伝

カチカチ山異伝  

狐七化け狸は八化け
      舌を出す奴尻尾出す奴
 
もうかなり昔のことですが、近所の人から聞いたお話です。お伽噺にカチカチ山というタヌキが主人公で老夫婦と兎が絡むものがございます。どうもその噺の異伝ではないかと思われるものです。
ある処といっても、この界隈のお話ですが、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。かなりの齢で、それも二人暮らしで細々とした生活を営んでいたそうです。名前がよく判らないので翁と媼と呼ぶことにします。ある時翁が柴刈に山へ出かけた折に、タヌキの赤ちゃんが一匹雑木の陰でピイピイと啼き声をあげておりました。見渡してみても、親の姿はありません。可哀そうに思った翁は子ダヌキを拾い、懐に入れて家に連れ帰りました。だいぶ前に自分達の子供を育てたことはありましたが、タヌキは初めてです。ご飯をかみ砕いたりして与え、何とか育てることが出来ました。楽なことではありませんでしたが、二人にとってはタヌキの成長が楽しみでしたし、それが生き甲斐でした。
やがて、タヌキも随分と大きくなったある日、哀しい出来事が起きました。翁が山から柴を担いで帰ってきますと、いろりの脇で媼が倒れていました。その隣ではタヌキが寄り添うようにして眠っていました。
野辺の送りを済ましてそれほども経たない時に、何人かの村の人が酒と肴を持って翁を見舞いにやってきました。酒がすすんだ頃、一人の村人が言いました。名前を五作と言いました。
「このタヌキ、タヌキ汁にして食べたら美味かんべナ」
そう言いながら五作がタヌキに手を出したとたん、ガブリと喰いつかれてしまいました。
「イテテテ・・テ!こいつ食いつきやがった!俺の言うことが判ったらしい」
五作はタヌキを睨みつけました。翁が言いました。
「小さい時から、いろいろ話を聞かせているから、少しは判るかも知れんぞ、ハハハ・・。大きな声では言えんがノ、ワシはかなり前に食べたことがあるが、タヌキ汁なんてェ物は美味い物じゃァない。この臭いが肉にまで染みついている」
五作は少しばかり赤くなった手を眺めて、忌々しそうにタヌキを見直しました。人間のやり取りを聞くともなしに、タヌキは寝てしまいました。
「こいつ、タヌキ寝入りをしていりゃあがる」
五作はタヌキがどうしても気に入らないようです。
翁はいつまでも悲しんでばかりもいられないので、また柴刈りに出るようになりました。タヌキも一緒について行き、時には柴を背負子で担ぐなど、翁の手伝いもしました。帰りがけに翁が一服している時、キセルを叩いた拍子にたばこの火玉がタヌキの背中の柴に入り、燻り出しました。すぐに気が付いたので大したことにはなりませんでしたが、背中の毛が少しばかり燃えて縮れてしまいました。
家に帰って膏薬を塗ってやっていました。そんな時、五作がきました。
「お、背中に火傷か。話に聞くカチカチ山だナ。兎が騙して背中に火をつけたとされているが、お前さんがやっちまったのかい」
噛まれてこの方、五作はタヌキを見ると何かと悪く言いました。タヌキはあまり気にする様子もなく、五作の顔を見ていました。
それからしばらくして、翁はタヌキと魚釣りに川へ出かけました。このところ続けて降った雨で川の水かさが増え、流れが速く、あまり魚は釣れません。翁は少しずつ深みに入って行きました。その時、思わず足を滑らしてしまい、転んでしまいました。立ち上がろうとしましたが、手を伸ばしても足を延ばしても川底に届きません。深みにはまってしまい流されてしまいました。これを見たタヌキは川原を下に向かって駆け出しました。家にいる時ののんびりした動作からは考えられないくらいの速さです。流された翁は浅瀬に打ち上げられ、横たわりました。それ以上は流されずに済みましたが、水に体を横たえたまま動こうとはしません。翁の脇に駆け付けた、タヌキは翁の手首に食いつきました。かなり痛かったと見え翁は半分失いかけていた気が戻りました。半分だけ気の戻った翁の顔をタヌキは舐めました。
「お、お前か。助かったようだ。ありがとう」
何匹か魚の入った魚籠と釣竿は流されてしまいました。収穫はありませんでしたが、翁は嬉しそうにタヌキを抱いて家に帰りました。
このところ何かがある時に限ってやってくる五作が翁の家にその夜もきました。
魚を取りに出かけて川へ嵌まりタヌキが助けてくれた。翁は嬉しそうに、その話を五作に聞かせました。
「タヌキは兎にドロ船に乗せられて沈められ、溺れることになっているのに・・・。爺さんが溺れて、タヌキが助けるなんぞ、兎が聞いたらさぞ悔しがることだろうて」
「ハハハ、舟になんぞは乗っていないし、ウサギも傍にいなかったゾ。何でお前さんの話には兎がそんなに出てくるんだ」
「兎・・。あれの身は柔らかいし美味い。臭みなんぞはないからワシは好物なんじゃ。タヌキは確かに臭くて美味くない。いけない、いけない。折角寝ているのに起きて又噛まれるのは御免だ。帰る、帰る」
それっきり、五助さんは翁の家に寄り付かなくなりました。
暫くして翁はタヌキを連れて何時もと反対方向へ出かけました。小高い丘を過ぎると少し開けたところに出ました。畑のようですがすっかり荒れていました。その丘の縁に五作がぼけーっと座って、タバコをくゆらしていました。
「おい、五助じゃあないか」
「おぉ。タヌキ爺か」
「フム、タヌキ・・。まあいいや。お前さん此処でなにをなさっている?」
「・・・いいじゃあないか何をしようと。タヌキを捕まえに来たわけじゃあないことは確かだ」
翁はこれ以上話を続けるとこじれそうに思ったので、引き返すことにしました。丘を戻った所に何軒かの家がありました。知り合いがいるので寄って、五助の事を聞きました。五助はこのところいつもあの丘の所に座っているということでした。兎を捕まえ、それでタヌキをやっつけるとか言っているようです。そのために、毎日のように兎が木の根っこにつまずくのを待っているそうです。村では待ち呆けとかいう唄が流行っているそうです。

では小噺を一つ。

タヌキです その二

鋭い質問で著名なジャーナリストが小池都知事にインタビューした。意表を突いた意地悪な質問に軽快で当意即妙な受け答えをした。
ジャ「・・選挙結果、代表辞任ということで、党内からも騙されたとか、たぶらかされたという声が出ておりますが?・・・」
小池「いいえ、私は決して人を騙したり誑かしたりはしておりません!・・」
ジャ「どうしてですか?・・・」
小池「だって、私はキツネではなく、どちらかと言えばタヌキだと申し上げたでしょ。狐は人を騙し、誑かしますが、タヌキは何事も騒ぎ驚かす、サプライズだけですヮ・・ホホホホ・ほ」

(2017.12)