はじめに

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2016年10月6日木曜日

ゲナゲナ話

ゲナゲナ話
しみじみと秋風はたち
しもじもに噂をたててほくそ笑み

洗面所の物入れの中から古い物が出てきた。少しばかりケバケバしい印刷がしてある紙に包まれている。「減肥海藻石鹸」とある。記憶にあるものだ。減肥という日本語はない。中国語だろう。平成になって間もなくの頃と記憶している。海藻の入った石鹸で体を洗うと肥満が防げる。そういう話があった。その頃、香港あたりへ行った人からお土産に頂いた記憶がある。その時分、今のように中国製品に対する疑わしさは持っていなかった。むしろ、漢方の流れから、海藻により何らかの作用があり痩身の効果が期待できる。頂いた石鹸を使ってみた。日本のそれと違い、洗濯石鹸に近い匂いと感触がした。直接肌に触れなくては意味がなかろうと、ゴシゴシやった。ワカメの芯のような海藻が浮き出てきて、ゴツゴツした肌触りがした。あまり気持ちのいい感じではなく、もう一度使おうという気にはならなかった。程なくして「減肥海藻石鹸」にはそんな効果は全くなく、インチキだという話が聞こえてきた。誰がどのようにして仕込んだのか判らないが、いい加減な代物をそれらしく見せかけて売る手法だったようだ。
何かのもくろみを達成するために、意図して風評を流すことは承知している。それも大方は上つ方が、下々を誑かすためとされている。この石鹸の出現でその手の話を幾つか思い出した。
この地方では、「××××ゲナ」という言い回しをした。過去形なのは、多くの方言が絶滅しつつあり「ゲナ」もその一つと思われ、近ごろとんと聞かない。石鹸の話でいえば「海藻石鹸を使うとデブが痩せるゲナ」。そしてそういった伝聞話を「ゲナゲナ話」と言う。続いて「ゲナゲナ話は嘘だゲナ」と言う。パラドックスがある。伝聞推定話は嘘だと言いながら、ゲナで締めてそれも怪しいというのだから、嘘か真か判別しかねることになる。その手の「ゲナゲナ話」のいくつかを紹介する。多分皆さんも知っている話であろうし、忘れかけている話でもあろう。

緑青は毒である;
緑青は銅製品に顕れる錆である。今は何が使われているのか知らないが、昔は今川焼などを焼くのは銅製品だった。周辺に緑青がついている調理道具を見ている。どの程度の毒性かはさて置いても、緑青が毒だとすれば今川焼など食べるのは不都合だが、腹痛を起こしたことはないし、話も知らない。このお話は戦前のものである。梵鐘など大型のものにとどまらず、家庭内の銅製品を供出させるために創られた「ゲナゲナ話」だったゲナ。聞いた覚えのある話ではあるが、当時の日本ではそんなホンワカとした話でなくても、嫌でも応でも供出させられただろうに。どうしてこの話が流布されたのか理解しがたい。理解しがたいことではあるが、今川焼を緑青の着いた道具で焼かれて、眼の前へ差し出され、さぁどうぞと言われたら、少しばかり手が出しにくい。

新型爆弾は白い衣服で被害を防げる;
原子爆弾を新型爆弾と言った。広島、長崎に原子爆弾が投下されてから終戦になるまでの間でないと、この話は効果がない。当時、我々が何か知る手段としては新聞とラジオ、それと人から人の伝聞しかない。新聞はその時期に発行されていたとしても、手元に来る手段があったのか。我が家にもラジオはあったが、焼け出された先でそれがあったかどうか覚束ない。いずれにしろ誰か大人から聞いた話であろう。学校の先生の可能性もあるが、はっきりした記憶はない。新型爆弾と言う単語は戦時中のものであり、戦後は原子爆弾だ。新型爆弾と言う単語を伴って聞いた話であるから、極めて短い時間で伝わっていることになる。それとも、戦後になって、こういう非科学的な、乃至はお粗末な防御手段しか日本にはなかったのだという、批判派の流した「ゲナゲナ話」なのかもしれない。白い衣服といっても、着の身着のまま、着たきり雀に着替えなんぞはない。着替えて対策をしたわけはなく、話だけが記憶にある。

米ばかり食べていると馬鹿になる;
米を主食として食べると消化のために大量にビタミンBが必要になる。ビタミンBが欠乏すると血のめぐりが悪くなる。血のめぐりが悪いということは馬鹿と言うことだ。
論理の中にビタミンBを持ち出し、いかにも科学的なお話になっている。米の消化のためにビタミンBが使われるのは素人でも疑問を覚える。しかし、後半部分は少し感じ入るところがある。私は中性脂肪がかなり高い。所謂高血脂症とかいうやつだ。血がドロドロになっていて、血のめぐりが悪くなっている。馬鹿そのものだ。ビタミンBの服用を処方された。Bの番号は忘れてしまっている。どういう訳か、整形外科の医師の処方であったことと、高いと言われて半世紀近く放置しているので服用はしなかった。さはさりながら、お医者様が処方をするのだから、ビタミンBが血のめぐりに係わっているのはそれなりの根拠があろう。だから米ばっかり食べていると血のめぐりが悪くなって馬鹿になるという話は、馬鹿に出来ない。
馬鹿になりたくないと思ったらしく、もう長い間、朝は大方パンにサラダとハムエッグ。それにコーヒー。コメダのモーニングサービスと同じだ。
これは戦後過剰生産で余っていた小麦を日本人に食べる習慣をつけさせ捌こうとした進駐軍のプロバガンダだったとされている。折から戦争に負け、己の力の無さ、無謀な戦争に突入したとされる頭の悪さ。反省に反省を重ねる心に響いたお話であり、完璧に日本を席巻してしまった。米は減産に減産、小麦に至っては、アメリカ産に駆逐され、国産は絶滅危惧種になっている。
このゲナゲナ話に乗っかって、米食を減らした日本人は賢くなり、戦後復興は大いに進み、今日の繁栄を見ることとなったゲナ。

味の素を食べると頭がよくなる;
米を食べて悪くなった頭を好くする方法もあった。味の素を摂るのだ。昭和40年前後のことだったと思う。家庭の食卓の上には赤いキャップの容器に入った塩より透明性が高く、粒子の大きい味の素が置いてあった。味噌汁にふり掛け、特に白菜の漬物には間違いなく使用した。食べると白菜の食感に加えて、若干のザリザリした舌触りを感じた。何となく美味かった。美味い上に頭がよくなる。何を契機としたか判らないが、いつの間にか我が家の食卓からこの容器が消えた。暫くして売り上げを伸ばすために、容器の穴を大きくしたのが間違いの素になったというゲナに近い話を聞いたことがあった。味の素という食品会社は冷凍食品で今はお世話になっている。すっかり味の素という調味料のことは忘れていた。それが最新のニュースで久しぶりにお目にかかった。日清食品がアメリカで販売しているカップヌードルを味の素フリーにしたというニュースだ。味の素はグルタミン酸ソーダである。ニュースによれば食すると習慣性が生じ、頭痛や吐き気をもよおす。それでこの手の化学調味料は欧米では評判がよくないとのことだ。摂取による症状はまるでヤクに近いものだ。その昔私自身が、大量摂取していた時に、習慣性は生じていたか否かは不明だが、頭痛や吐き気などをもよおした記憶は無い。日清食品は味の素フリーを謳い文句にしてカップヌードルのアメリカでの売り上げ増を図るゲナ。味の素は出初めから今に至るまでがゲナゲナ話で構成されているように思えてならない。

石鹸で頭を洗うと禿げる;
日本人は頭を洗うのに、石鹸でゴシゴシやる。欧米人はシャンプーというものを使う。シャンプーはアルカリ性ではないから、髪の毛を損傷しない。石鹸はアルカリ性で、髪を傷める。羊毛製品であるセーターを石鹸で洗ってみろ。たちまち繊維がチジミ上がり硬くなる。二度と着られなくなってしまう。人間の髪の毛だって同じ成分で出来ている。生きているからなんとかもっているが、次第に痛みが進みついには無くなってしまう。結果として禿げるのだ。極めて科学的で説得力のある話である。
石鹸で洗うと禿げるという話は欧米人という進んだ人々、日本人という遅れた人々という意味合いがあり、そういうと信じられる時代背景下のゲナゲナ話である。当然、化粧品会社のプロバガンダである。残念ながら、世間が広がり、外国人と接する機会が増えるとこのお話は簡単に否定されてしまった。どちらかと言えば、若い人の禿は欧米人の方が結構多いように思われる。典型的な例がある。日本の殿下は髪ふさふさだが、イギリスの殿下はそうではない。この話をゲナゲナ話と決めつけるには理由がある。この何年間、私は石鹸で頭を洗っている。頭を洗うついでに髪も洗う。髪も洗うということは禿げていないということだ。勿論最盛期に比べれば色は褪せ数も減ってはいる。しかし禿の分類には属していないと思っている。私が洗いたいのは頭皮である。頭皮を洗わないでいると垢がたまり痒くなる。垢を除去し痒みを無くすにはシャンプーのようなヤワな物では満足できない。
石鹸で洗うべしと決めたのは経験に基づいている。長年、頭部以外は石鹸で洗ってきた。それにも拘らず、首より下部の方は禿も傷みもしていない。白髪の一本もない。かたや髪の毛は色素が無くなり、白髪が多数を占めている。下の方は石鹸による副作用は見当たらない。髪の毛が白くなったのはシャンプーによる副作用と考えるのが筋というものだ。おまけに幾ら丁寧に洗っても、シャンプーではあくる日の夕方にはフケが出るし、痒くなる。もしかしたら「減肥海藻石鹸」で洗えば、黒髪に戻るかもしれない。

ここまでのゲナゲナ話は少し時代がかった古いものである。未だに引きずってっている感じもあるが、日本&日本人⋜外国&外国人という戦後の時代環境ゆえのものだ。情報が飛び交い、比較検討できる世の中、この手の話は・・・・。

現代版;
人を誑かすお話では「オレオレ・・・」というのが一番有名である。有名ではあるが、遭遇したことが無い。
「医療費を払い過ぎているので払い戻しをする」「工事費はタダで、電気代、ガス代が安くなる」この手の電話が時々ある。私は好きだ。なるべく丁寧に対応し、話を聞くようにしている。時々質問を挟む。成程と思う返答が少ないのが残念でならない。こう答えた方が判りやすいのだがとご教授したりもした。そこまで来て、向こうが不審に思ったのか電話を切られてしまった。その相手は市役所の方だと自称していた。30分位は会話を楽しめた。
メールでは「オメデトウございます、抽選で何がしかのものが当たりました」「アンケートに答えるだけで・・ウン万円・・」などというのがよくくる。これは対応に困る。理由は私が時代に遅れてしまっているからだ。ITに関する知識がないので、この手のものにどの程度入り込んで楽しめるのか、限度が判らない。入り口で遠慮することになる。残念でならない。

餃子

地獄では鬼手不足がひどくなり、閻魔大王自らが抜舌の刑を執行する頻度が増えていた。
毒餃子事件の犯人が冥界入りした。閻魔大王に舌を抜かれることになり、閻魔大王の面前に引き立てられた。
鬼「これ、口を大きく開け、大王さまの面前へ参れ」
男「あ~・・・」
閻魔「どうりゃ・・。うわっ!・・・」
男「あ~・・・」
閻魔「執行停止!放免いたす。直ちに下がれ!」
男「あ~・・・。お有難う・・・」
鬼「大王さま。いかがなさいましたか」
閻魔「どうもこうもない! 臭くてかなわぬわぃ・・・」
鬼「これ、亡者。一体どう致したのじゃ」
男「あ~・・・。毒入り餃子の残り全部を食べさせられ、死刑となりました。それでこちらに来たのだと思います。他のことは覚えておりません」


(2016.10)