はじめに

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2019年10月6日日曜日

忘却とは


忘却とは

忘却とは忘れ去る事なり 

忘れさりて忘却を恨む心の悲しさよ



免許証更新のための認知症検査を受けました。

結果通知が来ました。見事、甲種合格です。早速、次の段取りの講習を申し込みました。2時間の講習です。乙種だと3時間講習です。丙種ともなると、機能低下が著しいと疑われ、受講ではなく受診になるのだそうです。2時間講習はお安くなっています。検査時の説明では、できが悪いと金がかかるよと脅かされました。受診にまで低下している気遣いはなさそうだと舐めていましたが、三年前に比べ程度は悪くなっていました。己の記憶力低下を思い知らされました。この度は、受験手順が変わっています。三年前は、今回のペーパーテストのほかにシミレーターでのテスト、それに運転実技が一緒でした。この部分がペーパーテストによって仕分けされ、切り離されて別途受講という手順に変わっています。その都度お金が必要であり、時間も余分にかかります。爺婆の免許証更新に手間暇と金を掛けさせようという魂胆です。面倒くさくして返納を促し、貯め込んだ小金を吐き出させる国策です。上手な仕掛けです。大いに賛成します。

忘却とは忘れ去る事なり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ“

連続ラジオ放送劇「君の名は」の初めに流れた語りです。女湯が空になると囃された大ヒット番組です。中学生の頃でした。物語をまともに聞いていたという記憶はありませんが、なぜかしら、認知症検査を受けた帰りにこの語りの文句を思い出しました。

60年余昔のラジオドラマの枕を覚えているのです。覚える必然性も無ければ努力をしたわけでもありません。覚えているのです。

忘却とは忘れ去る事なり・・・・・“に続いて、急に過去から現在に思考が戻りました。できなかった問題の答えです。絵を見て、雑念を仲入れして、何の絵が描かれていたか思い出す例のやつの答えです。16問中4つができませんでした。ヒントを見て書く段になって1つを思い出しました。結果として3つがダメでした。その3つを車の運転中に思い出したのです。

乗り物=「ひこうき」、台所用品=「やかん」、果物=「れもん」の3つです。

なぜ駄目だったのか。反省、併せて自分自身への言訳を考えました。

「ひこうき」はもう長いこと乗っていません。それと乗り物という分類がそぐわない気もします。「やかん」は我が家にはありません。ポットと早沸きのケトルで湯を沸かしています。「ひこうき」や「やかん」を見たのは、遠い過去のことだから忘れていて思い出せないのだ。そうだ、そうだ。大いに納得し、心安らかになりました。困ったのは「れもん」です。我が家にはレモンの木があります。毎年百個に余る実をつけます。今は青い実が鈴なりです。それなのに、それなのにです。そもそも果物はそのままパクリと食べるものです。レモンは直には食べません。果物という分類が・・・。でも果物だよなぁ・・です。

もう一つというか二つというか、引っかかった物があります。

ヒントを見て書く段です。動物の項目にペンギンと書きました。進んでいくと鳥が出てきました。鳥は何だったべか。ペンギンは鳥だ。そうそう、動物はウサギだ。でも、ウサギは一羽、二羽と数える。ペンギンは・・・・・・。紛らわしい。

運転しながらくだらないことを考え続けるのは良くない。帰ってから考えよう。

忘却とは忘れ去る事なり・・・・・“は短いから覚えているのだと思い返しました。帰宅してから、長いやつを唱えてみました。

チンオモフニワカコウソコウソクニヲハジムルコト・・・・・・・・・“

仏説・摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩・行深般若波羅蜜多 ・・“

完璧に復唱できるつもりでしたが、駄目です。所々思い出せないところが両方共にありました。何年か前にやってみたときはちゃんとできました。経年劣化です。

 甲種合格通知を受取った日に、学生時代の仲間のMLに戦時中の歌に関するものが掲載されました。右翼の街宣で、大音響で流される軍艦マーチをヒントに当時のこの種の歌を思い出してみたそうです。この御仁、二日間掛けて考えたということです。結果18曲を思い出しました。二日間考える持久力もたいしたものですが、思い出した曲数が18曲というのも驚きです。私は18曲の中で、1曲は知りませんでした。試しに17曲の一番を歌ってみました。全部歌えました。そこで、他に知っている曲の一つや二つはあるだろうと思い、二日は無理なので、十分ばかり考えました。一つも出てきません。アッタ!あったと喜んで見直してみると、18曲の中にあるではありませんか。たった今歌ったのに、それを忘れているのです。その後、MLには、あれがある、これがある。こんなのが思い浮かんだがどうだろうか。等など皆さん脳活動を活発化させ、いつ覚えた、それは戦後だとか、結構楽しく賑わいました。

 二年ほど前に書いた「うたごころ」でFORESTAの歌う懐メロを聴きながら、原曲をうたった歌手の名前を思い出すお遊びを紹介しました。あの場合は曲名、作詞作曲者名、年月に加えて肝心の曲が唄われるのです。戦時中の歌で知っているものを思い出せという命題は情報が少なすぎます。FORESTAの場合、情報はたっぷり与えられ、そこで歌手を思い出すのですから、楽なはずです。それでも名前が出てこないことが結構沢山あります。モゾモゾ感のままで、終わりの画面に歌手名が出ると、そうだ、そうだったのだと安心感、安堵感が少しの口惜しさとともに出てきます。

受験帰りの車の中で問いの答えを思い出す。戦時中の歌では、人の思い出したものはわかる。FORESTAでは字幕でホッとする。

 記憶低下といわれるが、少し違うようです。記憶は大方残っています。ヒントとか時間があれば出てきます。必要な時に思い出せないだけです。忘れたりしてはいません。古いことは覚えているが、新しいことは覚えられない。古いことは出てくるが、新しいことは出てこない。これが正解ではないでしょうか。思うに脳細胞の未使用領域が少なくなっていることもあり、データーの断片化が起きているのです。古い記憶は断片化していないから、比較的早く思い出せるのに対して、新しい記憶はバラバラに収納されているので時間がかかるのです。デフラグが必要です。脳みそのデフラグ方法ですか。知りません。パソコン用語はほとんど判らない、理解できないのですから無理です。一つだけパソコン用語で知っていて、この問題解決に役立つものがあります。内緒でお教えします。「初期化」です。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



では小噺を一つ。



ヨレヨレ詐欺



 オレオレ詐欺の受け子が標的の家にやってきた。玄関でそれらしい年寄りが応対した。

受「孫の太郎さんが急用で来られなくなり、頼まれて来ました。お願いしてあるお金を頂いて参ります」

婆「ハイハイ、ご苦労様。事情は電話で聞いて承知しております。少しお待ちください」

お婆さんは奥へ取りに行き、暫くしてかなり分厚く膨らんだ封筒を持ってきた。受け子はそれを受け取ると、さっさと玄関を出た。

暫くして、受け子が息せき切って戻ってきた。

受「こっ、こ、これは何ですか!?」

婆「おや、どうかしましたか?」

受「こっ、こ、これは本物のお金なんかじゃアありません!玩具のお札です」

婆「おや、何をおっしゃいます。太郎はそれをママゴトでよく使っていました。今でも通用します」



 (201910