はじめに

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2020年2月12日水曜日

警察のご厄介


警察のご厄介

ワレワレはオレオレ阻止の最前線

ダメダメ現金ヨイヨイ振り込み



 年末にオレオレ詐欺に関連して、警察のご厄介になった。私がオレオレ詐欺を働いたのではないし、引っかかったわけでもない。



 私にも年金を補う程度の蓄えはある。その残高と寿命とのせめぎ合いにどちらが勝つかは、終わってみないと判らない。その蓄えが定期預金になっている。その預入先を変えようとしたことで、いささかの混乱を引き起こしてしまった。

満期になった定期預金を引き出すべく家内と銀行に出かけた。

住所氏名に始まる書式を書き終えたところで、アンケートのような物への記入を求められた。オレオレ詐欺防止対策の一つである。

「こんな電話、ありませんでしたか?」というタイトルで、「はい・いいえ」に○をつけるようになっている。1番の息子、孫などから「風邪を引いてる」「携帯番号が変わった」など言われたか、から始まって、「還付金を返す」の9番までである。

・・・詐欺への注意を喚起するため、老人向けに作られているものである。そういう扱いを受けるにふさわしい年頃であり、もしかしたら風体もそうかもしれない。

 「10番に“アンケートにはいいえに○をつけろと言われませんでしたか”を加えた方が好いのでは?」

 「・・?」

質問のすべては、犯人とおぼしき人から言われていないかである。犯人たる者、この手のアンケートの内容ぐらいは承知しているに違いない。「いいえ」と言えのご指導があってしかるべきである。しかし、10番の設問も期待される答えは「いいえ」だ。困ったものだ。小噺のネタになるかもしれない。

アンケート記入ですべての手続きは終わった。受け付けた女子行員が書類を持って行くと、スーツ姿の男の行員が替ってカウンターに来た。こういう者ですと名刺をくれた。「・・・次長」と肩書きがあった。

 「このお金は何に使われますか?」

 「さっきの方にも言いましたが、他の銀行へ預け入れます」

 「引き続き当行にお預けいただけませんか?」

 「これも、さっきの方に言いましたが、近所にあったお宅の支店が閉鎖され、不便になったからです。ここへは車で来なくてはいけません。近所の方は歩いて行けます」

 同じ事を何度も聞くな。俺の金をどうしようとおおきにお世話だ。その意味を伝えたくて、さっきの方に言いましたを繰り返した。気に入らない。この男、こっちを見ようとしない。書類を見ているだけで話をしている。面倒くさいのだ。

 「53番ですが」

 「は?・・・」

我々のような零細金額の利用者は53番と呼ばれている。符丁である。正しい発音をするとゴミだ。次長様は判らないふりをしているに違いない。

 「ご近所の銀行の口座はありますか?」

家内が通帳を取り出し、次長様に差し出した。

 「お前ねぇ。こちら様に家の通帳をお見せする何ざぁ、いらんよ。そこまで厳しいお取り調べをする気も無いだろうし、こちらも御免被る」

不必要に丁寧語を使うのは、怒りの表現だ。

 「はい、もちろん中まで見せていただく必要はございません。それでしたら振込を利用された方が宜しいかと・・、現金では何かと・・」

苛立ってきた。

 「振込は嫌です。現金でお願いします。振込手数料は・・・。この定期の利息と手数料と・・・」

 「玄人の方にそういう質問をしてはいけないョ。承知で言っているんだから。低金利時代、銀行は手数料で稼いでいるらしいョ。これぞ本当の振り込め詐欺と言うべきものかも」

 先方様に聞こえるように、家内に注意をした。当然、聞こえているから反応があった。

 「小切手ではいかがでしょうか?」

 「小切手?・・どうやって使うの?・ダメダメ、駄目。現金、現金!」

 「如何しても現金でと言われると、警察に来ていただかないといけません」

 突然、警察に・・である。

 「警察?あのねぇ、ここの金を出せって言ってるんじゃあないよ。俺の金をくれって言ってるんだョ。なんか、防犯を使った嫌がらせだナ。流行語では何やらハラスメントって言うんじゃあないの」

 「何しろ年の瀬で、こういう場合には警察にと言われておりまして」

 「失礼を通り越して、無礼じゃあありませんか」

 “無礼”は外務大臣だった河野さんがどこかの大使に怒りを伝えた言葉だ。盗用させて貰った。国際的に通用する丁寧な物言いだ。クレーマーの誹りを受けたくはない。最大級の丁寧さを込めて怒りを伝えるには好い単語だ。使った単語は“無礼”だけだが、“無礼者!そこへ直れ!”の気持ちだ。

 「警察でも何でも呼んでください。現金以外一切駄目です」

 次長さんは自分の席に戻り、電話をした。警察を呼んだようだ。奥の部屋で待つように言われたが断った。私は別室を使うようなVIPではない。53番の客だ。

 なかなかお巡りさんが来ない。席にいる次長さんに声をかけた。

 「警察へは電話したの?気の利いた強盗なら、とうにトンズラしているよ。どうせ暇人と思っているかもしれないが、何時お迎えが来てもおかしくない年寄りだ。残りの時間はそんなに長くない。催促してほしい」

 「そういう訳には、・・もう間もなく・・」

家 「今ここで、定期を普通預金に移せますか?」

 定期を普通預金に移せば、ATMで引き出せる。家内が改善提案を出した。可能だと言うことで、手続きをしてもらった。そこへお巡りさんが二人入ってきた。

 問題解決済みを告げたが、呼んだのは銀行で、貴方ではないから、回れ右で帰ることはできないとお巡りさんは言った。

 「そうすると、私の立場は何ですか?参考人・・不審者ですか、それとも被疑者ですか?何の容疑ですか?」

 お巡りさんは二人ともかなり若かったが、私の饒舌、冗談を理解し、苦笑いをしながら調書?を作成した。

 「家のおばあちゃんも、銀行で警察を呼ばれたって、ひどく怒っていました。申し訳ありませんネエ」

 「オレオレの被害に遭いそうかどうか、もう少し適切な判断をしてもらわないと、警察には迷惑ですよネ。あの次長さんは、そういう意味では素人同然です。認知能力が欠如している、・・もしかして認知症?ハハハ・・・」

 「夜中に猫がウルサイなどと110番してくる人もいます」

お巡りさんとは会話を楽しむことができた。

 「手続きが終わったようです。・・ATMで下ろしてきます。あそこのカウンターでもらう現金は危なくて、ATMのやつは安全ということですナ。・・・危ないんだ。そうだ!ついでに家までパトカーで護衛してもらえませんか!」

 「いいアイデアです。でも、不採用です!」

 残念ながら、私の改善提案は却下されてしまった。お巡りさんに丁重にお礼を言った。次長さんにもご挨拶をしなくてはいけない。

 「忙しいところを、お騒がせしました。現金をいただく事ができました。孫の代理人の方が家に来る時間に間に合いそうです。有り難うございました!」

(蛇足)

貧乏人で良かった。金持ちは何回も嫌な気分にさせられ、警察のご厄介にならなくてはならない。



それでは小噺を一つ



三途の渡しにて・その2



 消費税での値上げで混乱していた三途の渡しにレポーターが、年が明けて暫くして、再び取材に来た。戻る人はほとんど無くなっていた。受付にいってみると、そこから少し離れた処にも受付があり、並んでいる亡者の列はかなり短かった。レポーターは受付に質問をした。

R「以前来たときより列の長さは短くなって、戻る人もほとんどいなくなったようですが?」

受「そうですね。消費税での七文への値上げが周知してきたのだと思います」

R「向こうの受付の列はかなり短いようですが?」

受「あちらはモロコシの方達です。通貨単位が違うので国別になっています」

R「モロコシ?あぁ、中国の方達ですか。・・人口からいったら、遙かに多いはずの国の列が短いですね?」

受「はい。こちらは小銭の勘定が大変で、時間がかかるのです」

R「中国元の場合は小銭ではないのですか」

受「あちらはほとんどの方が電子マネーで、QRコードとやらを使っていると聞いています」

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