はじめに

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2017年1月1日日曜日

鳥のお話

鳥のお話 

うがいするように鶏春を告げ
          流感予防に初日の出

明けましておめでとうございます。新春でございます。何といってもひたすらお目出度いことにいたします。何が目出度いか。私はこれが書ける、貴方はこれが読める。ヨタ話、ゲナゲナ話でございます。
年始のご挨拶に毎度お世話になっております八っぁんがやってきました。
八「新年で。おめでとうと言わなくちゃぁなりません」
隠「おぉ。これは、これは八五郎様。おめでとうございます。新年早々少し斜に構えてのご挨拶で、どうなすったかな?」
八「今年は酉年で、正月には隠居の鳥談義でも聞いてやろうと思っていたわけです」
隠「聞いていただける?有難いことで。恐れ入ります。今年もぜひぜひよろしくお願いいたします」
八「でも気に入らないのです」
隠「気に入っていただけない?どういう訳で?」
八「暮れから、なんでも鳥インフルエンザとかで、鳥がたくさん死んでいます」
隠「鳥だけにバタバタと死んでしまう」
八「動物園じゃァ外出禁止、見学禁止」
隠「知り合いのウズラ農家へ行ったら周り一面真っ白だった。鬼祭りのタンキリ飴の粉かと思ったが、少し時期が早すぎる。おまけに中へは入れてくれない」
八「そう、そう。石灰を撒いています。それだけです。病気で死ぬのは仕方が無いとしても、周り近所にいる奴まで、殺処分で何万羽というではないですか」
隠「それで、ワシにどうしろと言うのかナ?」
八「役立たず!隠居に何かが出来る訳はない。IPS細胞だとか、オートファジーだとか医療にどうのこうのと言っているが、鳥一匹助けられない」
隠「すみません。ゴメンナサイ。・・何でワシが謝る?インフルエンザに効くなどというのは少し筋違いじゃァないか」
八「八つ当たり。八つ当たりです。まぁサッパリした。これでよしとしよう」
隠「・・・・・!?」
八「さてと。今年もよろしくお付き合いの程を」
隠「何となく付き合いづらそうだが、まぁ好いとするか」
八「なんか気に入らないことを言いましたか?口直し、ご機嫌直しに一つ酉談義でもやらしてあげようじゃぁてんで」
隠「酉談義?・・やらしていただけるんで?おアリガトウごぜぇます」
八「よいよい。遠慮せず申してみろ」
隠「ハハァア!」
八「こんな下ごしらえでよろしいでしょか?」
隠「ウン。いいだろう」
八「ではどうぞ!」
隠「鳥ナぁ?何を語ればいいのか?・・・では手始めに鳥との馴れ初めからいこう」
八「お、気取って来たナ」
隠「考えてみたら、結構色々な鳥を飼ったことがある。ホオジロ、目白、文鳥に鶯」
八「ケチな割には結構金をかけたナ」
隠「ケチだヨ。金をかけたのは鶯の籠くらいなものだ。他はタダだ」
八「成程、納得、ナットク」
隠「ホオジロ、文鳥は貰い物。目白は自分で捉まえた。鶯は向こうから迷い込んできた」
八「怪しいナ!鳥を飼うなら、それなりの許可だとか何かが必要なんじゃあ。捉まえるなんぞは以ての外だ」
隠「昔の話だ。当時は好かった。悪くても時効だヨ」
八「時効?これだから年寄りは嫌だ。都合が悪くなると昔の話にしてごまかす」
隠「昔話しかない」
八「昔のことは覚えているけど、昨日の晩に食べた物は覚えていない」
隠「思い出した」
八「晩飯?昼飯?」
隠「鳥だヨ。雀がいる。飼っていたというのはおこがましいが、ホオジロの籠の上に雀が巣を作った」
八「ホオジロには迷惑だ。下に糞が落ちる。まさかこれが本当のシタキリ雀って、くだらネェ噺じゃァ?」
隠「ハハハ。そうしとくか。雀は卵をうみ雛がかえった。巣が大きくなり、雛がかえって、重みに耐え無くなった。籠が壊れてしまい、ホオジロも雀もいなくなった」
八「そこで雀探しに遠近と、・・・」
隠「まだシタキリ雀にこだわっているな。探しに行かなくても、今では雀も目白も家の庭にやってくる」
八「恩返しとでも言いたいの?」
隠「恩返しじゃあないが、嬉しい気分にしてくれた鳥もいた」
八「鳥が?」
隠「文鳥が逃げた。部屋の中で放していたのだが、うっかり窓を開け、そこから脱走した」
八「解放され、自由の身になった」
隠「自由になっても、文鳥なんぞは野生では生きていけないヨ」
八「そりゃそうだ」
隠「外に出て、傍の木に向かって文鳥の名前を呼んだ。差し出した手に来てとまった」
八「いい話じゃあござんせんか。今でも庭に来る鳥たちは手にとまるんで」
隠「からかうんじゃァない。庭に来るのは雀と目白だけじゃあない。鶯、ヒヨドリ、ムクドリ、鳩、・・・」
八「猫の額のこの庭に、そんなに沢山来るものか」
隠「いやぁ、鳥だけじゃあない。猫も来る」
八「猫の額に猫が来る。ご隠居!知ってますヨ。頭山だ。頭山の噺。それを言いたいんじゃ」
隠「ハハ、バレタようだナ」
八「桜の木を抜いて、出来た穴に飛び込みますか!」
隠「桜といっても、サクランボの木だ。実が熟れ始めるとヒヨと争奪戦をやる楽しみが毎年ある。滅多な事じゃァ木は抜けネェ」
八「木は抜けネェ!? 気は抜くし、手は抜くのに。他にトリエは無いので・」
隠「トリエはないが、もう一つ庭で見た鳥がある。八っあん、お前さんは見たことは無いと思うよ」
八「お!眼を輝かせ、ドヤ顔になりましたネ」
隠「ベイジャーフローだ」
八「何でス?その便所風呂ってのは?」
隠「ベイジャーフローだ。ハチドリだヨ」
八「ハチドリ?あぁ、テレビで見たことはありますヨ」
隠「わしは見たことがある。嘴が長くて花の奥の蜜をホバリングしながら吸う。かの国では砂糖水を入れたストローのような飲み口の付いた容器をベランダに掛けておく。そこへベイジャーフローが飛んでくるという仕掛けだ」
八「飼わなくてもいいんで?」
隠「飼うのは無理だろう。野生だヨ。わしが働いていた工場では建物の周囲の木の花にやってきた。人がいても気にするそぶりもなかったよ」
八「自慢話ですネ」
隠「ウン。日本では無理だ」
八「判りましたけど、何でハチドリと言えば判るのに、便所・・・・」
隠「お前さん。本当は言えるのにわざと便所などと言っている」
八「バレタ?でも、日本語があるのにわざわざカタカナ語を使う野郎がいるんで、・・・野郎じゃあなかったか。メロウ?どっちにしろ、どうも気に入らねェ」
隠「偉い人をヤロウとかメロウとかお言いでない。八っぁんが言うように、アジェンダ、レガシー、オマケにアンシャンレジュームと来た。アンシャンレジュームなんぞは大昔、俺達、安保世代に使われていた。古語だナ」
八「さいでスカ。じゃぁ、あの方はその時代の生き残りで。そんな年寄りには見えませんが、歳を厚化粧で隠しているんですかねえ。どこかの大統領のようにお抱えの美容師かなんかがいるんで?」
隠「全てを公開すると仰っている。隠れて整形なんぞはやらんだろう」
八「全て公開?厚化粧でシミは隠しているって言ってましたヨ」
隠「まぁ好いじゃあないか。気に入らないかもしれないが、一生懸命値引き交渉をやっている」
八「それで頭へ来ているのが、ご隠居で。違った。ご隠居とは同じ名前だが、格が違う。あの方、カッカ来て頭へ飛び込むんじゃァ」
隠「頭山から離れてくれ」
八「・・・・でも、少しばかりこだわっているのはご隠居の方で」
隠「・・・?」
八「頭の狂歌で流感がどうしたとか・・。本当はインフルエンザって言いたいところをわざわざ漢字にしている」
隠「ウーン。バレタか!よくぞ気付いてくれた」
八「そう言えば昔は流感と言っていましたよね。いつの間にかインフルエンザにになった」
隠「ウィルスが変異したんじゃァないか。それともマスコミによる言論統制かもしれない」
八「ところで、酉年と言やぁ本命は鶏でショ。ご隠居は鶏を飼ったことはないんで?」
隠「子供の頃好、お祭りでヒヨコを買ったことがある。買ったことはあるが飼ったことはない」
八「・・・・?」
隠「その日のうちに死んじまった」
八「可哀そうに」
隠「もう一つ。雄鶏のでかいのに追いまくられ、嘴で突きまわされたことがある」
八「ハハアン。イジメか。それで鶏を語りたくない。やな思い出か」
隠「そんなトラウマはない」
八「そうだよ。酉年だ。寅でも午でもない」
隠「酉だ。しかし、あの雄鶏は強かった。今の鶏はケージの中で産卵器になっている。新年に語るにはどうもな」
八「流感といい、産卵器といい、困ったことになった。落ちが無い。卵は転がり落ちて集められるから、ということで如何で?」
隠「好いんだヨ。今年は酉年。取り留めのない噺。酉、停めのない噺で歩み続けるの兆だ。いい年になる。目出度し、めでたしダ」
ハイ、お後が宜しいようで。テケテンテンテン・・・。
今年も適当に暮らしましょう。後期高齢者に留まり、末期高齢者にならないよう一旦停止励行を!
(2017.1)