はじめに

●●●

2015年1月1日木曜日

ひつじ年

のさまようなどとは言わすまい 
来へ進む第一歩

あけましておめでとうございます。ご機嫌よろしく新年をお迎えになられたことと思います。さて、このところ正月号にはその年の干支に係わることを書いております。今年はひつじ年でございます。困ったことに、私は羊なるものにトンと縁がございません。一度だけは間違いなく羊を見たことがあります。動物園に何度かは行っていますが、そこでは見た記憶がありません。動物園に羊はいるのでしょうか。世界に羊飼いと言う職業があるのは承知しておりますが、日本には羊飼いの方はいるのでしょうか。
羊の肉は何度か食べたことがあります。何度かとは言いながら5回は食べていません。初めて羊肉を食べたのは、室蘭だったと思います。初めて北海道の地を踏んだのが室蘭だったからであり、北海道へ行ったらジンギスカンを食べなければと思っていたからです。これが有名なジンギスカンかという思いと、なんじゃこりゃぁという批判的、否定的記憶が羊肉に対する思いの始まりです。
名古屋の鶴舞公園の側か中にジンギスカンの屋外レストランがありました。そこで食べたことがあります。羊肉に対する思いは変わりませんでした。日本人以外の方々は羊の肉をよく食べられるようですが、何か特別な調理法があるのでしょうか。独特の臭みに抵抗を感じて、どうもいけません。羊の肉はどうもと言ったら、お前は安いものを食べているからだという批判をいただいたことがあります。その方が、高級な羊の肉を御馳走してくれました。ごちそうさまでしたとお礼を言いました。どうかと聞かれて「はい」と言いました。ごちそうになったお礼としては、「美味しゅうございました」というべきでしょうが、言えませんでした。心の広い方でしたから、それ以上強くは尋ねられませんでした。他には羊の肉を食べた記憶がありません。
羊頭狗肉という言葉があります。羊が不当表示の看板に使われているのですから、売られている犬の肉は、羊の肉より安いか、不味いのだと思います。その言葉がありながら、狗肉祭りと言うのがあって、盛大に食べる会を催す国もあるようです。羊頭狗肉の語源国の行事です。古い言葉のようですから、昔からこの手の商売が盛んだったのでしょう。それにしても、あの羊肉よりまずい肉を食べるというのは信じられません。世界の多くの人々と、同じ国の中の愛犬家などの反対を押し切ってまで食べるのですから、当人たちの味覚がかなり変わっているということなのでしょうか。私には好き嫌いの問題ではなく、旨い、不味いの問題だと思えるのですが、どんなものでしょうか。
羊頭狗肉と並んで、嘘をつく、騙すということで羊が絡んでいるのに、オオカミ少年の話があります。あれは羊飼いですね。羊つながりで人を騙すというお話が洋の東西にあるというのは、羊にとっては少しばかり迷惑ではないでしょうか。羊が世界に飼われているということなのでしょう。それにも拘らず、日本に羊も羊飼いも見当たらないのは、この国が歴史的に世界から離れて、昔からガラパゴスと同じ立場にあったということです。
古くは、推古天皇の御代に羊を百済からの到来物として受け取ったという記録があるそうです。百済からは、それより先に仏教が入っていました。肉食は駄目です。好き嫌い、うまい不味いではなく、禁忌です。羊を食べる訳にはいかなかったのでしょう。百済の方々は、今では羊肉を食べるのでしょうか。日本では頂いた羊から羊毛をとったということもないようですから、その時はペットとして飼ったのでしょうか。繁殖もしていないようですから、羊飼いなるものも必要なく一代限りで絶滅してしまったのでしょう。
肉食は駄目でも毛を利用する事までやらなかったのは、何でも取り入れ自家薬籠中の物としてしまう日本人としては解せないことです。羊を飼うに適した草原のごときものが無かったのでしょうか。山国故、少しでも平らなところがあれば、食用植物を植えた方が食料の生産性が高いという経済性の故かもしれません。
羊を見た記憶が間違いなくあるのはニュージーランドです。人の数より羊の数の方が多いと言われている国です。観光旅行で行きました。羊の毛刈りショウを見ました。大きなバリカンで毛を刈るやつです。羊を抱えたかと思うと、かなりの早さで刈り取ってしまいました。その手早さは見事なものです。ただ、私は拍手を控えました。裸にされた羊に何条かの切り傷があったからです。血がにじみ出ておりました。職人芸として、その速さ手際良さに加えて結果の美しさが無いと、ショウになりません。あの痛々しさをお客に見せてはいけません。眼にもとまらぬ早業が、素晴らしい結果をもたらさないと、見世物としては落第です。どうも羊に関しては食べるのも、見るのもいけません。
スーツもセーターも羊毛で出来ています。20数年前にカナダで買ったカウチンセーターを未だに愛用しております。かなり重いのですが、その温かさは極地生まれの製品としての力を十分に発揮しております。ところで、カナダでは羊は飼われているのでしょうか。
食べる、見るはいけませんが、着るは素晴らしく好いものです。その点で羊には結構お世話になっているのに、何故かしらピンとこないのです。
一寸タンマです。家内がひつじ年です。

小噺を一つ。

クーロン羊ドーリー

 クーロン羊のドーリーが7年の寿命を終えて身罷った。天国に着き、受付で入国申請を行った。
受「申し訳ありません。貴方は神様が御創りになったものではありません。資格がありませんから、入国は出来ません」
そう言われたドーリーは雲間にかかる道を歩いて、地獄の門へとやってきた。受付で入獄申請を行った。
受「申し訳ありません。貴方は前世で何も悪いことをしていません。資格がありませんから、入獄は出来ません」
そう言われたドーリーは雲間にかかる道を再び歩いて、極楽の門へとやってきた。受付で入極申請を行った。
受「貴方のようにさ迷えるものは結構沢山います。当極楽ではどなたもお入りになれます」
安心し、喜んだドーリーは極楽の中に入った。見渡すと、辺り一面は晴れ渡りお花畑になっていた。少し進むと、空を飛んでいるものが眼に入った。近づいてきた。鉄腕アトムだった。アトムはドーリーの横に降り立ち、言った。
ア「やぁ、よく来たね。僕たちのように人工のものだけではなく、人工の比率が高いものがここには沢山居るよ。臓器移植とか人間の技術が進んだためか、このところ結構仲間が増えているんだ」
ドーリーが首をあげてみると、空を飛ぶもの、野を駆けるものが沢山目に入った。猫のような丸っこい奴が近づいてきた。
ド「やぁ。僕ドラえもん。元気そうだね」
そう声をかけると、何処でもドアを開けて、行ってしまった。
少し進むと、人間の女の子が数人いた。スタイルの好い、顔立ちの綺麗な女の子達だった。皆が似ているので姉妹だろうと思われた。すっかり気に入ったドーリーは、側に生えている花を口にくわえて、彼女たちに差し出した。女の子達はにっこり笑って、ドーリーの頭を皆でなでながら言った。
女「カムサムニダ!」

(2015.1)