はじめに

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2015年3月6日金曜日

安らかな眠り
お前要らぬと切られた首は余所でつなげる術もあり
安らかに眠よう安らかに眠れ

2月号に引き続き曽野綾子の「アラブの格言」を引用させもらう。
曰く「息子を殺された母は、やがてその事実を忘れて眠るが、息子が牢獄にいる母は、決して安らかに眠れない」
これはアラブの格言でトルコではない。
アラブ、トルコに係わる事件があった。Isナントかという連中に日本人二人が人質となり、殺された。
殺した奴らは「イスラム国」と称し、そう言われてもいるが、世界のどの国も国家として認めていない集団である。彼らに敵対し戦っているクルド人は、かなり纏まった人口と国土、おまけに政府まで持っているのに国として認められず、イラクの一自治区だ。訳が判らない。「イスラム国」で判っているのは、極悪非道なことをするので、悪い国?乃至は悪い奴らということだ。迷惑なのは彼らと無関係のイスラム教徒である。奴らを「イスラム国」と呼ばないでください。日本に住んでいるイスラム教徒の人たちは、マスコミなどにそう言っている。政府関係者はIs・・・と呼んでいる。NHKは最近Is・・・に変えたが、他のTV、新聞など多くのマスコミは今でも「イスラム国」と言い続けている。「支邦」は駄目と言われると即座に止めてしまった方たちが、かなり実害が及びそうなイスラム教徒の人たちの要請を無視し続けている。何かそれなりに拠り所があっての事なのだろうか。もしかしたらあの近辺にいる自社の記者が「イスラム国」に狙われるのを恐れているのかもしれない。やはりマスコミには要請ではなくて、要求をする必要がある。それも脅しを含んだ方が効き目がありそうだ。
統一的名称が無いと意思疎通に不具合を生ずる。ここでは彼らの言うところの「イスラム国」を「Isナントか」ということにする。狙わないで頂きたい。
摩訶不思議さは日本のマスコミに始まったことではない。彼らIsナントか自身が一番摩訶であり不思議である。とにかく判らないことが多いのだ。判らない、判らないと、私の理解が悪いのは、発想に飛躍どころか僅かな経験だけが頼りで、新しいことに適応できなくなっている老脳だからかもしれない。何方か衰え知らずの明晰な頭脳の持ち主の方。そう!貴方のことです! なにとぞお教えいただきたい。
彼らはお金をシコタマ持っていて、外国からリクルートしてきた若者を兵士に仕立ているという。兵士にはかなり高額な賃金を払っているらしい。過勤務手当はつかず、能力給のようだ。日本の法律改定を待たずに実施しているのだろう。少し寄り道だが、あの過勤務手当を払わないという法律の趣旨はIsナントか並みによく判らない。これもついでにお教え願いたい。
Isナントかの資金源は、曰く石油の密売、身代金、占領地域住民からのみかじめ料と銀行の金庫荒らし。加えて闇ルートの寄付金。これらでシコタマ稼いでいるようだ。よくぞこれだけの諸悪を揃えたものだ。もしかして、これらの諸悪の根源には日本からの技術援助が入っているのではなかろうか。日本でよく聞くこの手の稼ぎは、正しくは「しのぎ」と呼ばれるものではないか。その筋からの支援はないのか。技術立国日本としてはここら辺りまで手を伸ばしていることも考えられる。蛇の道はヘビというから、こんなことは簡単に習得できるのかもしれない。もしかしたら、日本ヤ印界の尊厳を傷つけたかもしれない。スビマセン。とは言え、お金を稼ぐ手段自体はそれなりに納得でき、私なんぞにも判る気がする。
しかしその次が判らない。
稼いだお金。兵士たちに支給されるお金。多分ドルだろう。もしかしたらユーロかもしれない。その紙幣を、どこでどうやって使うのだろうか。彼らの宣伝ビデオを見た。人々と言っても兵士のようだが、談笑したり食事をしたりしている。支配地域には兵士の何十、乃至は何百倍もの住民たちが生活している。彼らは兵士たちを支持したり、殺されない為に支持の振りをしたりしている。その人々がこういった食事などを用意するのであろう。その対価は支払われるだろうか。それもドル建てで。払おうとしても、いいえ結構ですと言いたくなる。おもてなしの日本人だと、ここで笑顔の一つもつけてしまいそうだ。
食材はどうしている。のんびりとヤギを放牧し、畑に種を蒔き、肥料、水をやって収穫をすることができるのか。その収穫をしたものを市場や店先、果ては家庭に運べるのだろうか。国産表示出来るものはどの位あるのか。
現実に彼らIsナントかは何がしかの食料、衣類や武器弾薬などの兵器を入手しているのは間違いない。電気ガス水道。発電所は動いているのがあるのか。発電所は空爆で簡単に停止できそうだ。送電線などは簡単に切れる。それとも、一般市民への影響を考えて、連合国側も発電所や送電線の破壊はしていないのかもしれない。ガスは薪を燃やせばいいからなんとかなるが、薪が取れそうな土地には見えない。水が無ければたちまち困る。チグリス、ユーフラテス文明で知られている。大河が流れている。とは言え、少し離れた場所は砂漠か土漠みたいだ。井戸があればいいか。問題ない。あの乾ききった感じの土地で井戸を掘れば水が出るのかという疑問は残る。
兵器はサダム・フセインさんの遺産や敗走したイラク兵が放置していった物を頂いた。Made in USAUSSRだという。しかし、弾はどうしているのだろうか。弾薬もだ。USAUSSR間の規格は同じではなかろう。互換性が無くては困らないか。おまけに撃てば減っていく。大消耗品だ。補充すべき工場なんぞはないだろう。これは輸入するしか無い。石油闇売り分は実入りになるが、それだけでは貿易収支が赤字になるから、人質の身代金で補うこととなる。身代金を含んで経常収支が黒乃至はトントンになっているのだろうか。もしかしたら、赤字でどこかの国が融資しているかもしれない。
身代金の支払いを拒んで、資金源となるのを阻止するのは正しい。しかしいくら金を握っても、物に変えられなければ何ともならない。彼らの稼いだ金が勢力圏内を巡っているだけであろうはずが無い。内部留保などということはやらないだろう。大部分は外部調達のため圏外へ流出しているはずだ。国際貿易が行われているに違いない。金の流れより、モノの流れの方が嵩からいっても大きく、目立ちそうなものだ。それでも何とか手に入るのは、誰か目を瞑っているに違いない。何処ゾの国なり、組織なりの陰謀説をでっち上げれば、作れそうな気もする。
そもそも、Isナントかの目的は何なのか。何のためにやっているのか。オスマン帝国版図の回復説というのがある。無理だろう。大清帝国の版図を窺う国もある。その国はIsナントかなんぞは及びもつかない経済力、人口そして武力、とりわけ原爆まで持っている。実績も凄い。元体制発足後の犠牲者数実績はIsナントかなどは足元にも及ばない。桁違いだ。二桁では止まらない桁違いだ。幸い神様とは無縁なので、神のご加護は望めないが、いくら張り合っても無理だ。その大国内の自治区で猛烈に弾圧を受けている人たちがいる。そこからの実習生の訓練養成をIsナントかがしているというから、我が国より大国が狙われる可能性は高いとも思う。
不満を持った若者がIsナントかへ外国からやってきている。待っているのではなく、インターネットで募集をかけている。通販ではなく、通募だ。若者は不満を持つべきだ。反抗すべきだ。しかしそれで多くの他の人が犠牲になるのは迷惑というものだ。
素直に見れば、彼らは盗賊団の大掛かりなものだ。神の衣をまとって恰好をつけてはいるが、衣の裾から鎧どころか、見える所に堂々と鉄砲やナイフをかざしている。「明けの元旦から暮れの三十日までおらが親分の縄張りだ、身ぐるみ脱いでおいていけ」彼らの言っていることを日本語に訳すとこうなる。
一番理解ができないことは人殺しだ。見境なしに人を殺す。それもなるべく残虐な方法を選んで、これでもか、これでもかと見せつける。四人殺せば天国へ逝けると教育しているという話もある。素直な生徒たちばかり揃えている。
人質殺害のビデオでナイフを振りかざしているジハーディ・ジョンと呼ばれる男は覆面をしている。身元はバレテいるというのに、何で顔を隠すのか。後ろめたいのか。もしかして、彼らの戒律からすると、顔を隠しているのだから女ではないのかとも思ったが、どんなものだろうか。軽度の疑問である。
その残虐さを日本人二人に向けた。湯川さんが人質になったという報道があった。申し訳ないが、彼がそうなったことに私はほとんど同情というか、関心を持たなかった。彼は何がしかの金儲けのためにかの地に赴いた。そして目論見違いか、やりそこなってIsナントかの手に落ちた。どう見ても尋常な地域ではない。そんなところへ行く奴がと思った。そこではすでに、何人かの英米人が殺されていた。
湯川さんのことを忘れかけていたところで、後藤さんが捕まり、二人一緒の殺害予告ビデオが流された。そして湯川さんは殺された。その時、比較級でいえばいい方だと思った。人が殺されていい訳が無いが、あくまでも比較という意味においてである。彼らは言うことを聞かないと殺すと言っているのだから、殺す。要求の2億ドルを出さなかった。他の約束とか声明は守るかどうか怪しいものだが、「殺す」と言った場合は必ず守りとおす。それが一人で済んだ。
後藤さんは湯川さんを助けに行った。後藤さんは正義感の強い人だ。アラブの人たちを助け、窮状を世界に知らせる意思を持ってかの地へ行っている。思考も行動も立派な人だ。動機に頷けるものがある。私の感覚上では、よりいい方の人が残された。
交渉が行われた。誰が、どのような。日本に当事者能力が無いことは私ですら推測できる。TVに映し出される総理大臣、官房長官の顔。日を追うに従って、苦悶の程度が酷くなるのが見て取れた。
数日経った。これでいいのかと思い始めた。日本の中心にいるのは後藤さん一人だ。残りの1億2千万人の為に働いてもらわなければならない人達が、一人のために疲れてしまっては困る。その矢先に後藤さんが殺害された。ご冥福を祈りたい。
ご冥福を祈りつつ私の頭に、曽野綾子が浮かんだ。許してもらう。眠れなかった母親が眠ることができるようになった。政府も。私はそう思った。この発想は間違っているか。

では先月号の小噺の続編を一つ。

信賞必罰;又は天網恢恢疎にして漏らさず・Ⅱ

パリ新聞社襲撃テロ犯のサイドとシェリの二人が、射殺されて冥界に来た。天国での滞在許可期限が切れて、地獄へとやってきた。二人が中へ進んでいくと、知っている顔の男に気付いた。
サイド「お!もしかして、野郎、風刺画のシャブルじゃあねえか!」
シェリ「ウーン。そう言えばそうだ」
サイド「何かまた描いているみたいだぞ」
シェリ「預言者をからかって、描いているに違いない」
サイド「地獄まで来てか」
サイド・シェリ「野郎!此処まで来て預言者を冒涜するのか!覚悟!」
傷みつけられたシャブルはその場にばったりと倒れ、息を引き取った。
サイドとシェリの二人が気付くと、見たことのある天国の受付にいた。承知している手続きを終えて、許された期間、天国を楽しんだ。そして再び期限が切れて、地獄へとやってきた。やはり同じ場所に同じ男を見つけ、同じようにやっつけ、同じように天国へ戻った。何度かこれを繰り返し続けた。何回目かの期限切れで又々地獄へ来た。手慣れたもので、すぐにシャブルのいるいつもの場所にたどり着いた。
サイド「おい、野郎の姿が見えないぞ、どうしたのだろう」
シェリ「ウーン。そう言えば居ないようだ」
サイド「この前の時、少し元気がなさそうだったが、何か患ったのだろうか」
シェリ「元気でいて欲しいものだ」
不審に思った二人は地獄の受付へ戻り、シャブルの消息を尋ねた。
受付「あ、シャブルさんですか、彼は1年ほど前に貴方達から受けた傷がもとで亡くなりました」
シェリ「亡くなった?」
サイド「亡くなってもここに戻るのでは?・・・」
受付「何回も貴方達に、何度も死刑を執行されたので、預言者冒涜の罪の償いが完了しました」
サイド「それで?」
受付「こちらにいる理由が無くなり、許されて天国へ召されました。神は偉大です」
サイド・シェリ「おぉ!シャブル!お願いだ。なんでもいいから描いて、こっちへ来てくれ!」

(2015.3)