はじめに

●●●

2013年12月6日金曜日


ブラック企業

日本一これを機会に図に乗って冠までも取る気なり

せこいものかなセコイものかな

 

凄いことですね。草創期には100敗軍団と誹られた球団、楽天イーグルスが、9年の歳月を経て、日本一になりました。なんといっても嬉しいのは、かの王者巨人を倒してその座を得たことです。マー君を筆頭に、熱血星野の采配よろしく、真にもって目出度い限りです。世の中には、敗れた巨人のファンの方が圧倒的に多いでしょうから、日本にとってはそれほど目出度くないのかもしれません。しかし、私は大いに満足しております。

弱きを助け強きを挫く。これが一番多くの人から喝さいを浴びるお話です。私なんぞもすぐその尻馬に乗ります。

この度乗ってみようと思う尻馬は楽天です。巨人ではありません。強きをくじきの場合、今までは巨人ですが、暫くは楽天です。巨人は弱きを助けの、助けられ側に落ち込んでいます。可哀そうな巨人ファンにおもねって、楽天を誹ってみようと思います。馬に乗ったことは一度だけあります。それも観光用の馬です。見た目もおとなしそうな馬でしたから何の心配もありませんでした。この度乗るのは元気溌剌、尻馬とはいえども振り落とされたりする恐れは大です。お手柔らかにお願いいたします。

さて、馬仕立ての楽天です。楽天、ブラック企業論です。最近ブラック企業なる言葉をよく見聞きします。具体的に槍玉になっているのは、ユニクロ、ワタミがあります。どちらの会社も日頃お世話になっております。勿論そこで働いていたり、商売をさせていただいたりしている訳ではありません。利用させていただいております。ブラックと囃されても、けしからんことだとして、利用を止めるなどという制裁措置はいたしておりません。どの程度のものかと、野次馬根性でむしろ利用回数は増えております。一方お話を仕立てよう、尻に乗ろうとしている楽天は利用した記憶がありません。もしかしたら、ネット通販、ゴルフ予約をしたかもしれないかなぁ程度の記憶に薄いお付き合いです。ほとんど関係のない対象についてどうのこうのと言うのは、おおきにお世話なことです。野次馬根性丸出しの無責任論です。野次馬が馬の尻に乗るといういい加減なお話です。意図するところは来年の干支、ウマを先取りした、先進性をというさもしい魂胆もあります。

さて何を以ってブラック企業というのかです。

サービス残業、過重労働、パワーハラスメントが行われている。まかり間違うと、暴力的行為がついている場合がある。こう言ったことがブラック企業では行われているのだそうです。

楽天を以ってブラック企業と言うのは何故かということです。私は楽天の内部情報を掴んでいる訳ではありません。露呈してしまった事実に基づいてのことです。それは何か。この度の日本シリーズにおいて、楽天はブラック企業三原則をやらかしました。彼らのチームのエースであるマー君などに対してです。マー君には極めて短期間に二試合に及ぶ完投を強いました。あまつさえ、最終戦では前日の完投にもかかわらず最終回に登板させました。この仕事に対して、特別なお手当てはなかったようです。明らかなサービス残業、過重労働です。しかもそれが、志願してという本人に責任転嫁の上で強制された節があります。あの好青年の仏頂面からの推測です。野球人は個人経営者だそうですから、労働基準法は適用されないようです。しかし同法の精神は生かされ、尊重されるべきです。彼らは個々の契約という形をとっていますが、企業から離れての存在はできません。野球組織あっての選手です。逆らえば、働き場を失います。そこへ持ってきて、監督は「鉄拳制裁」というマクラ言葉で呼ばれた星野さんです。「投げるか?」そう言われれば「いいえ」などとはよう言えません。「ハイ、ぜひ投げさせてください」野球人の、エースの美学としても「ハイ」となります。則本投手なんぞも、新入生でありながら、あるからこそ、かなりの過重労働を強いられました。

自分がブラック企業へ入社した場合の対処策なるものが提示されています。いわく、「慣れる」「逃げる」「戦う」のだそうです。彼らはいつも「戦」っています。シーズンオフには過重労働に「慣れる」べく猛烈な訓練、鍛錬を行っているのはつとに有名です。あとは「逃げる」です。新入社員の則本君は「慣れ」と「戦う」にしばらくは勤しむことになるでしょう。歳を経て経験を積んだマー君は「逃げる」を企てようとしています。アメリカMLBでは100球強に投球数が制限され、過重労働から保護されています。産休や忌引きなどもあります。マー君が「逃げる」と楽天に100億円もの大金が転がり込むとも言われていましたが、急に20億円に値切られることになったようです。商売上手を謳われる楽天がどうするのか。売り時買い時を逃がすことはないでしょう。ところで、この手の収入は貿易外収支なのでしょうか。貿易収支なら、逃亡を逆利用した人身売買の疑いがありそうです。穏やかな話ではありません。

かくも歴然たる状況証拠を揃えて、楽天のブラック企業ぶりをいい加減に書きましたが、なぜか、冗談だけではないようなお話が聞こえてきました。

一つには、楽天日本一記念として、監督さんの背番号77に合わせて、77%値引きと称する販売を行いました。ところが値引きの基になる値段を高く設定し、77%値引きの販売価格に見せかけ売り出しました。典型的偽装です。詐欺に限りなく近い偽装です。このところ有名老舗企業が偽装騒動に名を連ねています。新興企業も負けじといったところでしょうか。ただこの場合は誤表示などというものではありません。バナメイ海老より77%値引き大特価の方が悪質です。バナメイ海老系の被害者はお金持層で、金銭的損失は相対的に軽いものです。まぁ、食通をもって任じておられる方々なら若干の屈辱を覚えたでしょう。それでも、「酢豆腐」の伊勢屋の若旦那程度のことです。日本一系は大幅割引なら買おうかという、いわばお金持層でない人々が大多数です。相対的に損失額は大きいのです。この事件で楽天の社長は見事日本一に輝きました。彼は誤表示などと言いませんでした。「怪しからんことだ!」と断罪し、インチキ値引きをやったテナントを出店停止にしました。こいつらが悪い。けしからんから処罰をする。歯切れよく始末しました。その剣幕、勢いに誰もが納得し、責任論を振りかざさず、社長に辞めろとは言いませんでした。日本一の危機突破でした。マー君はピンチになるとギアを入れ替えるのだそうです。社長もギアを入れ替えて、ピンチを逃れました。マー君に学んだのでしょう。その結果、社長は統治能力を世間に示すことになりました。ジョンウン様並です。

バナメイ海老系の社長さんは辞めさせられました。誰が辞めさせたか。マスコミです。何か不祥事があると、幹部が頭を下げる記者会見が行われます。見ていて気分が悪くなります。あれは完全にマスコミ対して、形式的にも実態的にも頭を下げています。被害者は勿論、テレビを見ている人たちがあれで気が晴れるということなどはありません。馬鹿なマスコミは低頭時間の計測までしています。楽天の社長さんが責任を追及されず、辞めろコールも起きないのは、楽天にかかわるマスコミの利益が、お世話になっている程度が、バナメイ海老系より桁外れに高いからではと勘繰ります。バナメイではなくブラックタイガーです。

もう一つあります。

ケツが引けているのはマスコミばかりかと思ったら、なんと政府までも引け気味です。薬局で売っている一般の医薬品を通販で売るというのがアベノミックスの規制緩和の目玉だそうです。二階から目薬的規制緩和策に思えますが、目玉に目薬だから効くのかもしれません。その目薬をさすのを後回しにすることになりました。「楽」の字に草冠をつけ「薬」にし「天」下って「店」開きし、「薬店」になる目論見だったようです。楽天の社長さんは目玉の先送りに怒り、政府議員なるものを辞めるとゴネました。医薬品の通販認可先送りにケツをまくったのです。まくられた政府の方はケツが引けてしまい、何とか説得したか、密約でもしたのか、当人が痔でも悪かったのか、パンツをはき直したようです。果たしてそのケツまつは如何か。功なり名遂げた一流企業経営者の多くは、その途中はかなり怪しげでも、晩年はお国のために働いています。彼はお国のためにと言われて政府議員になりながら、自分の家業の利益代表しか勤めない、ケツの穴の小さな人物なのかもしれません。痔が悪いか、小さいか、ご本人のそれを見たことがありません。

軽口のついでに楽天の悪口を言わしてもらいます。軽口のほとんどは冗談ですが、悪口は40%程本気です。

この会社は英語が公用語だそうです。日本では日本語が公用語だと思っておりました。たとえ一部とはいえ日本国土の中で他国語を公用語とするなど彼にそのような権限はあるとは思えません。日本ではこういうことが比較的いい加減に扱われております。日本語が公用語だと憲法には書いてありません。お役所では日本語でしか受け付けないから、公用語は日本語なんだろうなと思っております。その程度のことですから、英語を公用語と定めても、許されるのでしょう。でも、偉大なる大国、中国をごらんなさい。ウイグル自治区は中国領土にされました。チベット自治区も同じです。中国では、漢語というのが正しいのかもしれませんが、中国語が公用語のようです。たとえ一地区でもそれを逸脱することは許されません。ウイグルでウイグル語教育を、チベットでチベット語を義務教育として一切やらせません。先祖代々、昔から使っていた民族の言葉を公用語として認めず、教育を妨げる施策を行っています。楽天は英語国家の自治区なのでしょう。そして独裁国家と同じ独裁企業なんでしょうね。これが悪口です。

ブラック企業。企業の姿を表現するのにカタカナ語がつかわれています。

トイレは綺麗です。とくに最新式の日本のトイレは世界に類例のない綺麗さを誇ります。これを便所と言うと汚く聞こえます。水洗式ができた当初は、水洗便所と言いました。これでかなり綺麗になりましたが、水洗トイレになって更に綺麗になりました。

企業を表す場合もカタカナ語で綺麗にしています。ブラック企業と呼ばれている間は大丈夫なようです。これが黒企業と言われると大変です。黒企業には銀行がお金を貸してはいけないそうです。貸した銀行は頭取の年収が半分になって,一億円を切ることになってしまったそうです。大変なことです。頭取さんはこれからどうやって生活するのでしょうか。ブラック企業の経営者の皆さん、ぜひブラックでとどめてください。黒はいけないようです。

・・ここへ来て腑に落ちました。

楽天が英語を公用語とするのは、黒をブラックと言いくるめようという深い考え、社の、経営者の方針なのでしょう。たぶん。それなら納得です。まかり間違っても、中国語が公用語にならないようお願いいたします。

 

それでは野球に関する小噺を一つ。

 

引退

 

数々の最年長記録を更新してきた球界最年長投手が引退記者会見を行った。会見に先立ち、投手の投球が披露された。記者の質問が行われた。

記「やはり年齢からくる、肉体の衰えですか」

投「先ほどもお見せした通り、まだまだ体は大丈夫です」

記「ではなぜ引退を決意されたのですか」

投「本当はまだ投げ続けたいのです。球団の意向が・・・」

通常の引退会見のように進まないまま、会見は打ち切られ投手は退席した。記者が残った球団関係者に質問した。

記「本人は引退したいとは思っていないようですし、見せてもらった投球内容も、全然衰えていないようですが」

球「全くその通りです」

記「ではなぜ引退をさせるのですか」

球「投球内容は全く衰えていません。球団としても現役を続けて欲しいのです」

記「・・・・・・?」

球「なぜかしら、最近グローブが無くなったとか、時には財布が無くなったなどと彼がチームメイトに問いただすことが目立ち、チームの和が保てなくなりました。潮時かと・・」

 

(2013.12)

2013年11月6日水曜日


東京オリンピック

 

リニアーは無理でもオリンピックまでなんとかと

昨日も今日も薬飲み

 

えー、お笑いを申し上げます。異常気象とやらで、酷く暑い夏でした。10月に入っても真夏日のところもあったとか。台風の方も続けざまに来て、世の中大変でございます。その中で、この度はオリンピックが東京に決まったそうで。

八「こんちは。・・御隠居、相変わらずのご様子で」

隠「おぉ、八つあんか、マアお上がり」

八「この度はオリンピックが東京にってんで、お目出度い限りで」

隠「まぁな・・」

八「おや?まぁなですかい」

隠「いやいや、結構なことです」

八「どうもお世辞で結構と言っていますね?」

隠「そう聞こえるのは、真に遺憾でございますナ」

八「まあ、いいや。ところで、つかぬことを伺いますが、御隠居の歳なら前の東京オリンピックを観たんじゃあありませんか?」

隠「実のところ、観ていない」

八「そんなに若ぶってみたって、そうはいかねぇ」

隠「そんなことは言ってないヨ」

八「でも、テレビかなんかでは観たでしょう」

隠「覚えが無いんだよ。テレビが家にあったかどうかも覚えが無い」

八「じゃあ、今度のオリンピックが初めての経験になるということですね」

隠「おホン」

八「お、なんか一言ありそうな塩梅ですね」

隠「ウン。東京オリンピックの記憶は無いが、それよりより古い記憶がある」

八「おや?いったい何でス」

隠「ヘルシンキ。ヘルシンキだよ」

八「ヘルシンキ?」

隠「ヘルシンキオリンピックをラジオで聴いた」

八「ラジオで?」

隠「ウン。日本の皆さん、・・こちらはヘルシンキです・・」

八「何です、その大きくなったり小さくなったりの息継ぎみたいなのは?」

隠「この言葉の間に、ザーザザーザザザザーザザーザザー」

八「波音みたいですね」

隠「そう、いい勘だ。わしも当時、波の音だと思っていた」

八「・・・・・・」

隠「ヘルシンキからの中継放送だよ。ラジオだよ。今みたいに衛星中継じゃあない。なんでも短波とかを使って、ヘルシンキから送ってきたらしい」

八「海外中継の走りですか」

隠「そうかもしれん。海外中継だから波の音が聞こえると思っていた」

八「明治時代のことですか」

隠「馬鹿なことをお言いでない。戦後しばらくしてのことだ。フジヤマのトビウオが疲れはてた時分のことだヨ」

八「へーぇ?なんのことだか。ところでご隠居、オリンピックを持ってくるてぇのは、酷く厄介なようですネ」

隠「そこさ、IOC様にヘイコラ、ヘイコラってぇやつだ」

八「この度は日本のプレゼントが良かったてぇじゃあないですか。何をプレゼントしたんですか」

隠「ウン?プレゼント?・・あぁ何かプレゼントをしたかもしれないが、表立ってはいけないことになっている」

八「表立ってはいけねえんで?堂々としていて、それが良かったってんじゃぁ?」

隠「それを言うなら、プレゼントじゃあなくてプレゼンテーションだナ」

八「どう違うんで?」

隠「わしもよく判らんが、袖の下と袖を引く位の差はあるようだ」

八「袖の下? 余計に判らねぇ」

隠「まあぁいい。東京の素晴らしさを紹介したんだナ」

八「素晴らしいご紹介ってやつをクリトリ・さんがやってましたネ」

隠「クリトリ・さん?」

八「そう。クリトリ・さんをプレゼントした」

隠「ウン?あぁ、お前さんが言いたいのは、あの別嬪さんのことだナ」

八「さいで。クリトリ・・・・」

隠「少し名前が違うように思うが、そりゃあ、わしだって、あの別嬪さんがおもてなしをしてくれりゃあ、一票お入れしたくなる」

八「え、クリトリ・のおもてなしをプレゼントですか。いいなぁ。スケベー」

隠「ハハハ・・へへ・・」

八「でも、あの別嬪さんは外人さんでしょ。だから英語でしゃべってた」

隠「よく知らんが、日本人だよ。それと話していたのはフランス語だそうだ」

八「フランス語? ホー、聞いてた人は皆、フランス語が判るんだ」

隠「知らん。ただ、総理大臣や都知事は英語でしゃべっていたナ」

八「皆さん英語で?ご隠居は英語が判るんだ?」

隠「わしが判るような下手な英語じゃあなかった。皆さん流暢なもんだ」

八「じゃあIOCの委員様は皆ご隠居より英語とフランス語が判るんだ?」

隠「そりゃあ間違いない」

八「凄いなあ。これぞエリートの世界ってぇやつで」

隠「そう。世界のエリートだ。総理大臣ですら、へりくだって日本語でなく、英語でご説明申し上げていた」

八「一体、全体どういう方々で?なんか選挙で選ばれるんで?」

隠「知らん。判らん」

八「どうやって選ばれるのかわからない?どこかの国がそうだって言ってましたね」

隠「ん?あぁ、お隣、お隣。大きい国と小さい国のエライ人達はIOC委員並みってえことだナ」

八「判らないから余計に偉く見えるんだ」

隠「まぁな。なんでも貴族の方が結構いて、それもヨーロッパの方々が多いそうだ。まぁ、その方たちの金儲けの一つって感じもする」

八「エライ方々がおやりになるから、万事うまくいくんですね?」

隠「金儲けの方はとにかくとして、今度のソチやリオでは準備が間に合わないってぇ噂もある」

八「そう言やあ、プーチンさんがプチンと切れた。間に合わなかったらシベリアがあるゾ、みたいな顔をしてテレビで睨んでいました」

隠「そう、ソウ」

八「デモ、東京はまだ時間があるし、金もあるそうだから大丈夫ですよネ」

隠「国立競技場にかかる金が高すぎるってんで、手を加えるらしい」

八「金のことなら一番得意じゃあないですか」

隠「そうだと好いがナ。東南海沖地震でだめになるとか、アベノミクスの失敗でグチャグチャになるってエ噂もある」

八「はハー。ご隠居。オリンピックはうまくいかないと思っているんですね」

隠「そんなことはない。きちんと成功するにきまっている」

八「本当ですか」

隠「本当だとも。オリンピックには成果がつきものだ」

八「・・・・・?」

隠「セイカだよ。聖火!」

八「ヤロー!!それが言いたくてここまで引っ張ったな!」

隠「いやいや。そうあってほしいと思って言ったんだ」

八「へそ曲がりなくせに、しおらしい」

隠「なんとか、オリンピックまでは頑張るよ」

八「オリンピックまで? 憎まれっ子世にはばかる・・と言うじゃありませんか。オリンピックまでと言わずにリニアーまで生きますよ」

隠「そりゃあ無理だ」

八「どうして?」

隠「オリンピックで終わりだ。五輪終だ。ゴリンジュウだ」

お後がよろしいようで。テケテンテンテン・・・・。

 

では先月から先送りした小噺をひとつ。

 

天国

行状の悪かった男が身罷った。

身罷って、しばらくして男は目を覚ました。見渡すと、男は自分がお花畑の中にいることに気がついた。空には小鳥が飛び交い、木々には果物がたわわに実っていた。うっすらと芳香が漂い、幸せな時が流れていた。

男「ここはどこだろうか。世に言うところの天国のように思えるが、はてな?」少し離れたところを背中に小さな羽根を付けた子供が飛んでいた。

男「間違いない。あれは天使だ。俺は天国へ来たのだ。悪いことばかりをして、ロクでもない生活をしてきた俺が天国へ来られたんだ!」

あらためて、自分を見てみると、一糸まとわぬ素っ裸だ。

男「そういえば天国では裸で生活していると聞いていた。何て素晴らしい」

喜んでいるところへ天使が近づいてきた。

男「もしかしたら、ここは天国で、あなたは天使ですか?」

天「ハイ、ここは天国で、私は天使です」

男「はじめまして、よろしくお願いいたします」

天「ハイ、よろしく」

男「ところで、なんか痒いナと思ったら、ここには蚊がいて、喰われて痒くてならないのですが。天国なのに蚊がこんなにいるのですか?」

天「ハイ、いますよ」

男「素っ裸なもので、かなり食われているのですが、なんとかなりませんか」

天「自分の立場を考えてください。ここは蚊の天国なのです」

(2013.11)

2013年10月6日日曜日


小噺の言訳:ブラジルは天国である

ああ言えどこう言ったからとて言訳は

所詮言訳好い訳はない

 

「狂歌明日か7月号」に載せた小噺にかかわる言訳である。その小噺が、何が面白いのから判らない、どういうことなのか、こういう解釈でいいのか。質問を受けた。これは小噺として出来が悪いということだ。出来が悪いことを大いに反省したいと思う。反省の弁などというのはとかく程度の低い言訳が世の常だ。そして言訳はくどくなる。

私がこの雑文を書き始めて大方10年になる。心がけとして、なるべく同じ話を書かないようにしている。見栄を張ってのことだ。とかく歳をとると、言ったことや、したことを忘れてしまい、くどく、何回も繰り返す。あいつも歳をとったなぁと思われたくない。その見栄を満たすべく注意してきた。

この度は繰り返しを意識してやる。そもそも言訳などということは老いの繰りごとなのだから、何度も人がネをあげる程に、しつっこくやる必要がある。 そういう訳なので、適当に読み飛ばすか、無視してもらいたい。出だしからしつっこく、書いている。自分でも嫌になる。我慢できる方は尊敬に値する。

繰り返しの始めは、7月号の不出来な小噺だ。恥を忍んで再掲する。

 

 ブラジルで長年敬虔なカソリック信者であり、その生涯の多くを貧しい人々の救済に費やした女性が過労で身罷った。彼女は軽く肩を抱かれ、目覚めた。天使ガブリエルが優しい眼差しで傍にいた。

女「ここはどこでしょうか?」

天「勿論、天国です」

女「え?なんと言われました」

天「天国です」

女「あぁ神様。私にまだしばらく働けと仰せですか?」

天「・・・・?」

女「やっと神に召されたと喜んでいましたのに。まだ、サンパウロにいるのですか」

 

敬虔なるカソリック信女は、当然ながら、この世で善行を積み、天国へと神に召されたいと思っていた。そして神に召されて行き着いた先で、ここは天国だと言われた。生きている時、いつもブラジルはこの世の天国だと周囲が言い、自らもそう思っていた。なんと、私は未だブラジルのサンパウロにいたのか、神様に召されたのではないのですか。彼女はがっかりしたというお話だ。そういうお話だ。話の細かなところで反省点がある。最後のフレーズでまだ、サンパウロにいるのですか」は まだ、サンパウロにいるのですネ」

とすべきだった。

小噺には若干の約束事がある。日本の古川柳では、下女は浮気者だとか、伊勢屋といえば倹約家(けち)と決まっている。それと同じようにブラジル小噺では、例えば、ポルトガル人は頭が悪い、金髪女は馬鹿だなどがある。ユダヤ人はケチだなどというのは、ブラジルに限らず世界的約束事だ。他に、日本人の男の持ち物は小さいというのもある。幸いなことと言おうか、いい塩梅に、この世界では、この種の約束事を人種差別だなどと声高に言いたてる人はいない。

ブラジルに関しては天国であるというのがある。それを踏まえて、「この国のかたたち」は、彼らは天国に住んでいる(Estão no Paraísoで書き出していた。

勿論、ポルトガル人や金髪女は頭が悪いなどというのは事実を踏まえたものではない。とは言え、日本人の男とブラジルの天国説は事実に基づいていると言っても、諸兄の中にも異議を挟む人は少ないのではないか。異議を挟みたい人のために根拠となるものを示す。それによってこの度の言訳の根拠に変える。モトへ。日本の男のことについては論じない。これは日に何度かは手に触れ眼で見ているはずだから、自分自身でつくづく眺めてもらえばそれで好い。ここではブラジルが天国であることだけについて述べる。

 

神様が世界を造っていた。

手伝っていた天使が神様に質問をした。

天使「神様。こうしてお手伝いしながら、お仕事の中身を見させていただいていますが、気になる点があります。すみませんが、少しばかりお聞きしてよろしいでしょうか」

神様「何かね。言ってごらん」

天使「それではお聞きします。神様が造られている国々で、ヨーロッパには火山、アメリカには竜巻、中国には洪水と、どの国にも災害がばら撒かれています。特に日本などには地震や台風を始めとして考えられる災害のほとんどがばら撒かれました。

それなのに、ブラジルだけはいろいろな鉱物資源、豊富な果物、輝く太陽など多くの恵みが与えられています。良いことづくめで、ほかの国にはいっぱいある地震や台風などの自然災害は一つもありません。こういっては何ですが、私にはひどく不公平で、ブラジルだけがひどく優遇されすぎていると思えてならないのですが。いかがなものでしょうか」

それを聞いて神様はにっこり微笑みながら答えた。

神様「天使よ。私は神様だ。そんな不公平なことをする訳がなかろう。ブラジルにどんな人間を住まわせるか、よく見ておきなさい。お前もすぐ納得がいくから」

 

これはブラジルの創世神話である。紀元二千六百有余年の長い歴史を持つ日本と比較してはいけない。彼らの創世はわずか五百年ほど前である。遙かな昔、彼らの神様は世界をわずか6日でお創りになった。しかしながら、ブラジルを創り終えるのにはかなり長い歳月を要している。なぜなら、世界を創ったとされる時は遙か昔であるのに、どんな人間を住まわせるか、よく見ておきなさい。のお言葉で、よく見ておけと言われた人間が住み始めたのが五百年ほど前なのだ。先住民は別扱いだ。彼らは神様に好い意味で選ばれなかった人達だ。いまだに天国を汚さず、天国を謳歌している。神様に選ばれたその人間とは、馬鹿と約束事があるポルトガル人である。神様は食料と緑に満ち満ちた地上と、豊富な地下資源を創りこんで、天使への言葉を実行すべく、住まわせるべき人間を探し回った。そしてようやく、最適と見立てたポルトガル人を住まわせることとした。ポルトガルではブラジルを見つけた当初、そこに移住しようなどという輩はいなかった。神の意志が判らないポルトガル人相手に、神様はかなり苦戦を強いられた。折角の神の思し召しにも、彼らは選民であることに気がつかなかった。己を知らないアホなのだ。この辺りから、ポルトガル人はアホだ、頭が悪いという風評が立った。神様は情報操作を行った。一番功を奏したのは、女は褐色が一番いいというポルトガル人への刷り込みだった。成果のほどを見極めながら、口コミ情報を流した。ブラジルには褐色の女たちがいる。おまけにちょっとしたお土産程度で付き合ってくれる。不思議なことに、ネイティブの男たちは自分の彼女が何をしても、別に咎めたりもしない。天国の住民は大らかなのだ。かくしてやりたい盛りの男が海を渡りだし、猛烈な流行となった。若者の激減にポルトガル政府はあわてて渡航禁止令を発したほどだ。ここからブラジルの歴史は始まった。成程ここは天国だ。見渡せば、女だけではなく、自然も豊かだ。一日のんびり暮らせるし、あくせく働く必要はない。彼らの神様は罰として労働を人間に課されている。ここではその罰が無い。天国に違いない。

この小噺には類似品がある。神様は天国のように恵まれた大地としてカナダを創った。あまりに恵まれすぎているとして、隣にアメリカ人を住まわせることにしたというものだ。噺の展開としては面白い。ただ無理があるのは、カナダの自然は冬が厳しすぎ、人工的な技術、設備を以ってしないと具合が悪い。神様だけでは無理だ。気候的なことを加味すれば、むしろもう一つの隣国、メキシコをあてはめる方が適当だ。ただ残念ながら、メキシコ人は「メキシコは不幸な国だ。天国から一番遠く、アメリカに一番近い」と天国どころか地獄に近いと嘆いている。

 

ルーブル美術館でアダムとイブの絵の前にフランス人、イギリス人そしてブラジル人がいました。

フランス人が言いました。

「見てください。なんと二人とも美しいのでしょう。イブは背が高くすらりとしています。アダムは男らしく思慮深くみえます。フランス人に違いありません」

イギリス人が言いました。

「 とんでもありません! 彼らの眼を見てください。冷静で控えめな眼を。…彼らはイギリス人そのものです!」

そして、ブラジル人が言いました。

「 私は、お二人に全く賛成しかねます! よく見てください。 彼らは服を着ていません。裸です。住む家もありません。彼らが持っている食べ物といったらリンゴ一つだけです。それでいて、彼らは天国に住んでいると思い込んでいるのです。そんなのは、ブラジル人以外にはありえません!

 

ブラジル人は天国に住んでいると思い込んでいる。他人がブラジル人をつかまえて、あいつらアホか、何も知らないで、天国だと思い込まされていると言っているのではない。ブラジル人自身が、私たちは天国に住んでいると思い込んでいると言っている。それもルーブルまで出かけ、英語、フランス語での議論に加わる能力があるインテリ階級の言だ。アダムとイブだ。思い込んでいるだけではなく、天国そのものだ。正しい歴史認識だ。

この小噺も類似品がある。バルト三国で流布していて、ロシア人をあげつらうものとなっている。しかし「アダムとイブ」をロシア人に見立てるのは筋違いもいいところだ。ロシアで年中、裸で暮らせる筈が無い。住む家が無い人は凍死している。もっと決定的な誤認は、ロシア人自身が自分は天国に住んでいるなどとは絶対に思っていないことだ。トルストイを読め、ツルゲーネフを読め、そしてスターリンを思え。農奴と銃殺から天国は浮かばない。

気候が暖かく、食料が自生していて、自然災害が無い。ブラジルだけがこの条件を満足し、大多数の国民が天国説を信じている。

生活体験もある。カナダはハミルトン、メキシコはモンテレイ、ブラジルはサントスに滞在したことがある。ブラジルが天国を称するには一番適している。

 

神父がブラジル人の酔っぱらいに酒をたしなめさせようとして言った。

神「そのように昼間から沢山酒を飲んではいけません。身も心も病んでしまいます。貴方は真っ当に生きて、天国へ行きたいとは思いませんか」

酔「皆がうるさく騒ぐツアー旅行など、俺は好きじゃあない。たかが国内旅行ぐらいのために、酒が止められるわけがない」

 

恥ずかしながら、有体にいえば、私はこのピアダを聞いたとき、何が面白いのか理解できなかった。国内旅行に行くために酒を控える程のことはしたくない。ノン兵衛にとってはそうだろうなぁ。だけどなぁ・・・。かなりの時間、時間のオーダーではなく月のオーダーが過ぎたある日、突然気がついた。この酔っぱらいは天国の住人だ。今現在天国に住んでいる。国内旅行に行くのに何で酒を!・・・・。やられた。完ぺきな考えオチだ。噺家のクスグリにオチの分類について説明をし、考えオチというのはお客さんが家に帰ってから笑い出すというのがある。家に帰ってどころの騒ぎではない。参った。やられた。恐れ入りました。

 

ここまでピアダを証拠として、ブラジルが天国であり、人々が信じていることを証明した。有史以来、神様、天使、インテリ、ノン兵衛に至るまで、各界層が天国と信じていることを示したつもりだ。この歴史認識は、決して他国からとやかく言われることはない。

そりゃあ、歴史的に、過去はそうであったかもしれないが、今はデモもあり事故もあるではないかと言われる方もいよう。デモや事故は住まわされている人が起こしていることだ。神様が作ったブラジルは依然として天国だ。

歴史認識だけを押しつけてはいけない。私は一つの明白なる事実を以ってこれを証明したい。

ブラジルにはホームレスがいない。豊橋には居る。荷物を脇に駅や公園のベンチに寝たりうずくまったりしている。決して幸せには思えない。ルーブルのブラジル人は裸でリンゴ一つ、家も無い。家が無いのはホームレスだ。そんなことはない。賃貸だろうと同居していようともそれを以ってホームレスとは言わない。ブラジルに乞食はいる。豊橋にはいない。乞食と売春婦は最古の職業だ。彼らはちゃんと働いているのだ。住むところもある。政府の貧困政策が有効だから。ノン。有効ではないが故にホームレスがいない。彼らには帰るところがある。貧民窟、ファベーラがある。好い悪いは別にして、仲間内での互助精神は見事なものだ。悪が巣食っていようとも、そこに居れば暮らしていける。まかり間違って殺されることはある。しかし生活はできる。衣食住の全てが満たされる。そこに安定と仲間意識、住みやすさを覚えるのだ。どう考えても天国だ。同じ立場で他の国にいる人々の状況を承知している。

今、伯政府はリオのファベーラをオリンピックのために片付けようとしている。大丈夫か。間に合うか否かの心配ではない。人々の生活を思ってのことだ。

ブラジルが天国であることを歴史的に又現実的に証した。だからと言って、私の小噺が面白くなるわけではない。何のための言訳か。言訳のための言訳ということがあるではないか。大目に見てやって。

 

では小噺をひとつ。

 

関連の小噺をと睡眠不足を覚悟し寝床での思考を巡らせました。どうも、またまた、不作のそしりを受けそうなので、若干の熟成をいしたします。

いつも4~5頁としていますが、今月は6頁になりました。とかく言訳というのは長くなります。節度を守るために来月へ。

来月へ先送りのための言訳の追加分です。どちらがよろしいでしょうか。

(2013.10)