長寿介護
階段は手摺づたいで危機管理
そして小走り昇り降り
嘘つきは泥棒の始まり。そう言われ、躾けられてきた。多くの日本人がそうであったと思う。正直者は馬鹿を見る。世の中それほど甘いもんやおまへんで。そう言われ、成長してきた。多くの日本人がそうであったと思う。おかげで絶対に嘘をつかない、馬鹿正直原理主義者や、嘘しかつかない虚言癖症候群の人は少ない。多くは多神教である。皆が其の狭間を右往左往しているのが日常生活になっている。
私自身はどのあたりに位置して生活しているか。自分では嘘なんぞはつかない、ついたことが無いと思っている程度の嘘つきだろう。
ところがこの度、この私の良心を悩ます出来事が起こった。結果として、公権力に対して虚偽の報告をしてしまった。泥棒を始める準備に入ってしまった。
豊橋市役所長寿介護課から封書が送られてきた。中身は平成25年度「基本チェックリスト」というものである。タイトルから中身が何であるかが見えてこない代物である。65歳以上になった人に、設問に答えろというものだ。10点以上とると支援センターというところから職員が訪問してくる。実は我が家は数年前に一度職員の訪問を受けたことがある。10点以上だと優秀な成績ということで褒めていただけるのではない。「生活機能の低下」の恐れありということだ。訪問を受けたのは私ではない。家内だ。私の目から見て、決してひいき目ではなく家内は「生活機能の低下」の恐れなどという恐ろしい状態ではない。
少し経緯をお話ししなくてはならない。家内のところへ「基本チェックリスト」が送られてきた。そして10点以上の得点を得たらしい。それを受けて、職員が来た。玄関先で家内と職員のやり取りがあったのを覚えている。
「はい、あの・・外出は歩くか自転車で、電車やバスは利用していません」「階段の上り下りは、足が痛い時があるので手摺を使います」
そういった説明を幾つかしていた。
この度送られてきた「基本チェックリスト」の設問も多分同じだ。私は一通り目を通し、いかなる回答をすべきか考えた。そして泥棒の始まりをやることにした。正直に答えると、家内以上の点数を取り、間違いなく職員がやってくる。なまはげが来て、いたぶられるわけではない。暇つぶしには好いとは思うが、忙しい職員の方の時間を費やし、市税を無駄にする。本当に力添えの必要な人の妨害にすらなる。そこで嘘をつくことにした。
太文字で設問 を続いて私の本来したかった回答と点数を書きだす。
気が向かれた方は設問に答え、点数をつけてみてください。
1・バスや電車で1人で外出していますか いいえ +1
バスや電車を利用することはほとんどありません。距離がある場合は車を使います。健康のためも考えて、なるべく車は使わないようにし、近いところは歩くか自転車で出かけます。旅行とか飲む機会では新幹線やJR、名鉄などを使いますが、外出といった感覚にはそぐわないと思います。
2.日用品の買物をしていますか いいえ +1
日用品の買い物は家内がします。私はほとんどしません。
3.預貯金の出し入れをしていますか いいえ +1
年金は振り込みになっていますので、預貯金を入れるという機会はありません。出す場合は家内がします。私がするのは振り込みだけで、インターネットでやります。
4.友人の家を訪ねていますか いいえ +1
病気見舞いに行ったことがある程度で、訪ねているというような持続的行動はしていません。
5.家族や友人の相談にのっていますか いいえ +1
人に相談をかけることはありますが、相談に乗るなどという殊勝なことはやっていません。立場、能力がありません。
6・階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか いいえ +1
階段を上り下りするときは手摺に手をかけるよう心がけています。なるべく早足で上り下りをして、足腰を鍛える一助としています。向う脛を打ったり、踏み外したりしないよう、危険予知対策として、手すりに手を添えています。
7・椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか いいえ +1
ギックリ腰になったりする可能性があります。腰痛になったこともあり、気をつけています。いきなり椅子から立ち上がるような無謀なことはしません。
8.15分位続けて歩いていますか いいえ +1
時間を計りながら歩くことはしていません。散歩などは、途中で休みながらしているので、続けて歩いてはいないと思います。
9・この1年間に転んだことがありますか はい +1
パンツに左足を入れ、右足を通そうと持ち上げた時、引っ掛かって尻もちをつきました。
10.転倒に対する不安は大きいですか はい +1
尻もちでも結構いたかったので、大いに反省し、以後パンツをはくときは椅子に座って穿くようにしています。
11・6カ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか はい +1
胃カメラ、腸の内視鏡検査などで欠食続きとなり、3Kg弱体重が減少しました。
12・身長cm、体重kgを記入してください
点数に関係ないので省略
13・半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか いいえ +0
メマはさておいて、ハは丈夫です。
14・お茶や汁物等でむせることがありますか はい +1
お茶は結構ガブ飲みをするので、時としてむせます。
15.口の渇きが気になりますか はい +1
折からTVなどで熱中症に関する注意が盛んに行われています。普段は感じない口の渇きが、注意の都度気になります。
16・週に1回以上は外出していますか はい +0
17・昨年と比べて外出の回数が減っていますか いいえorはい +0or+1
統計を取っていないので、増減については答えられません。
18・周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか
いいえ +0
言われたことを覚えていないのか、言われて忘れたのか問い詰められると困ります。
19・自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか いいえ +1
電話番号はメモリー機能を使うので、いちいち調べて電話をかけることはしません。20・今日が何月何日かわからない時がありますか はい +1
今日が何日か考えて生活していないので、腕時計やパソコン画面、時には新聞の日付で確認する必要があります。
21.(ここ2週間)毎日の生活に充実感がない はい +1
このところ腹が痛く、上からはゲップ、下からは屁とガス放出量が多く、腹の中はガスだらけの感じで、充実感がありません。
22・(ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった はい +1
お仲間の予定と梅雨による天候不順で、楽しみにしていたゴルフができません。
23・(ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられるはい+1
ゴルフ以外にもと体操と散歩を始めたが、どうも億劫で続きません。
24・(ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない 判らない +0
考えたこともないので判りません。
25・(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする いいえ +0
疲れの原因はいつも判っているつもりです。
合計獲得点数18点である。あなたは何点になりましたか? 18点という高得点だと支援センターから一人では済まず、大挙して押し寄せてくるかもしれない。多くの方々に支えられている。有難いことである。ただ、申し訳ないが、日本に生まれてよかった、などと涙を流すほどには切羽詰まってはいない。ボケ老人への対処として来るのだから、会話もそのレベルのものをやらなくてはならない。くだらない、アンチョコなマニュアルに沿った質問に答えるほどつまらないものはない。考えただけで苦痛だ。きっと彼らをからかってしまうことになる。それでは申し訳ない。絶対に彼らを来させてはいけない。ここは一番、設問に対する答えを己の立ち位置を変えて、答えることにしよう。私は回答を改ざん、修正した。名古屋市で、職員の採用試験を議員の圧力で改ざんした幹部が懲戒免職になった。私は免職になる心配はない。結果は獲得点数1点だ。1点は16番の体重減である。回答に書いてある通りの理由で、体重が減少した。改ざん部分は、第三者委員会を作って調べられても、きちんと辻褄を合わせて言い繕うことができる。
これで大丈夫だ。
それにしても、この「チェックリスト」は何のためにやっているのだろうか。何点取ろうかと決めて、それ相応の点数にすることができる。彼らが期待する、ボケ老人抽出手段だとすると、抽出されるべき方々はまともな回答ができるとは思えない。どうにでもできる操作可能回答と、何だかわからない回答が集まるだけだ。リスト記入要領に(元気な方には適さない表現の部分もあり・・、全国統一の様式で・・ご了承ください)
と書いてある。調査は決して適切は思えませんが、何しろ国の基準でやっておりますので・・・と書いてある・・と読める。おまけに・・までに全員ご返送ください・・とある。全員という言葉は、そちらから見た言い回しで、私には他の方々についてまで責任を持てない。
ボケ老人実態調査を市としてはやる必要がある。確実に把握し、しかるべき対策を取るべきだ。その腰を折るようなことを言ったりしたりしてはいけない。
この調査で一つ気に入ったことがある。設問用紙と回答用紙は三つ折りにして送られてきた。回答用紙を返送するための封筒に回答用紙を三つ折りのまま入れると、少しだけはみ出してしまう。三つ折りのまま入る封筒をなぜつけないのか。注意書きがあった。回答用紙は四つ折りにして返信用封筒に入れてください。偉そうに、おれはこんな回答ぐらいは朝飯前だ。そう思い込んでいる輩の注意力をきちんと試している。三つ折りのまま、端っこを折って無理くり封筒に突っ込むなどという思考能力、あるいは注意力の低さを計っている。何が気に入ったか。私はこれをきちんとクリアーし、四つ折りにして返送したのだ。
では小噺をひとつ
元気な老人
三浦雄一郎さんが80歳にしてエベレスト登頂に成功した。三浦さんより少し若いお爺ちゃんが、その記事を読んで、エベレストに登ることを思い立った。彼は綿密な計画を立てた。そして家族会議を開いた。結果、お爺ちゃんの筋力ではとてつもなく不具合であり、加えて、遠征費用の金力にも及びもつかない不都合があると指摘され、エベレストを断念した。お爺ちゃんはすっかり落胆し、急に元気が無くなり、ボケも進んだのではと心配された。
しばらくして、富士山が世界遺産に登録された。
そのニュースを新聞で見つけたお爺ちゃんは、今度は富士登山をすると言い出した。そして綿密な世界遺産制服計画を作成し、家族会議を開いた。家族会議では、筋力と金力を勘案して若干の修正のうえ、計画を承認した。
数日して計画は実行された。お爺ちゃんは足取りも軽く三保の松原を歩いていた。メデタシ、めでたし。
(2013.8)
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