巳代わり
マヤごよみIPSに正月とことあらたまり日が昇る
えー、一席お笑いを申し上げて新年のご挨拶といたします。
八「明けましておめでとうございます。御隠居も好い年をお迎えの御様子で」
隠「おぉ、八っぁんかい。おめでとう。早々のご挨拶、有難う。今年もよろしくお願いしますよ」
八「今年は巳年だそうで」
隠「そうだな。巳年はなんでも、草木の成長が極限となり、次の生命が作られ始まる。草木の種子が出来始める時期とされるな」
八「そりゃぁ目出度てぇや。インギの好い年で」
隠「インギじゃあない、縁起だ」
八「縁起ですかい。そういやぁ、暮れに人類が滅びるてぇインギの悪い話がありましたが、ありゃぁ間違いだったんですね」
隠「まあな。でも本当は、人間は暮れの21日で滅びてしまったということも言われているな」
八「でも、こうしておいらたちはピンピンしていますよ」
隠「お前さんも私も実は人間じゃあないからだ」
八「へ!・・・」
隠「21日の夕暮れ、グアテマラという所でマヤの男が一人死んだ。これが最後の人間だった」
八「それで、今生き残っているのは人間なんかじゃあないということですか」
隠「マヤの血を引いたのは大勢生き残っている。だが、それらは皆直系ではない」
八「混ざっちまったんで?」
隠「そうかもな。私たちも含めて人間は一人として残っちゃぁいない」
八「なんか寂しくなりますね」
隠「まぁ、そう落ち込みなさんな。本筋と言われている方がある。マヤの暦は5125年周期であらたまるのだそうだ」
八「あらたまる?」
隠「そう。暮れの21日で前の暦が終わり、新しい暦にあらたまったのだ」
八「気の長い正月みたいなものですか?」
隠「そう。めでたい話だ。草木の成長が極限となり、次の生命が作られ始まる。草木の種子が出来始める巳年と重なる」
八「ははあーん。そこで巳年ですかい」
隠「そう。伊勢神宮も秋には式年遷宮といってな、20年ごとにあらたまるのだ」
八「こちらもあらたまるのですか。めでてぇの重なる巳年の始まりだぁ」
隠「かさねがさねにもう一つってやつだな」
八「それで伊勢は三重にあり」
隠「お前さんよく判っておいでだ」
八「ところでご隠居、巳てぇのは蛇だ。蛇の昔話を聞かせてくれませんか」
隠「蛇の昔話ねぇ。お前さんもこのところすっかり昔話が好きになったな」
八「いやぁ、ご隠居にゴマのすり方を覚えたんで」
隠「ゴマ?」
八「いえ、いえ。こっちの話で」
隠「まあいいや。だがな、八っぁん、蛇てえのはきらう人もいる」
八「へー。そういやぁ、あっしもどうも蛇は好きじゃありません」
隠「さてと、日本で一番有名な巳、蛇は何だか知ってるかい?」
八「何でがしょう?」
隠「やっぱりな。知らないだろうな。でも言われりゃあ気付くってものだ」
八「はてね?」
隠「八岐大蛇。出雲大社も今年遷宮だよ。その出雲の話だ。知ってるだろう」
八「あぁ、八岐大蛇。知ってます、しってます」
隠「あれは、出雲の国に出向いたスサノオノミコトが八つの頭と尻尾を持つオロチを退治した話だ」
八「知ってますよ。そのオロチの胎内から取り出したのが名だたる剣で」
隠「そう。あめの叢雲の剣という」
八「川上からドンブラこと箸が流れてきた」
隠「知ってるな。だが、話はかなり違うのだ」
八「さあ、来ましたね。待ってました!」
隠「へへへへ・・。川の名はヒノ川という。川の中を流れてくる箸がそう簡単に見つかるものじゃあない。流れてきたのは橋じゃ。アクセントが違う」
八「橋?」
隠「そう。大型の台風に襲われてヒノ川が氾濫し、上流の橋が流されてしまったのだ」
八「何で橋が箸になっちまったんで?」
隠「うん?・・・ん。関西と関東ではハシのアクセントが違う。それでどちらか判らなくなったんじゃ。箸の方は誤伝じゃて」
八「本当ですか?少し息苦しそうですね」
隠「まぁな。ハシじゃなくてハジをかかせたい訳でもあるまい?」
八「そうです、そうです。違いありません」
隠「橋が流されてきたからには、上流に人が住んでいて災害にあっているのではと、スサノオノミコトはまだ荒れるヒノ川を上って行ったナ」
八「何と人類愛に満ちた、勇気あるお方です」
隠「そう。上へかみへと上って行き、ようやく一軒の民家を見つけた。そこには老夫婦と綺麗な娘がいたな」
八「綺麗なね!」
隠「娘は名前をクシナダヒメと名乗った」
八「老夫婦の方は?」
隠「忘れちまった」
八「三人が悲しそうに泣いていたんでしょう?」
隠「そう」
八「八岐大蛇に姉たちが皆飲まれてしまい、いよいよ最後のクシナダヒメの番だ」
隠「八岐大蛇にのまれる?確かに家にオロチは居たが、それを囲んで三人が泣いていたのじゃよ」
八「一匹のオロチを囲んでですか?」
隠「そう。何でも姫がペットとして飼っていたオロチが、腹が痛いといって七顛八倒、苦しんでいたのだよ」
八「もしかしてそれで一匹でも八岐大蛇?」
隠「セイカイ!」
八「そうだろうな。それで、ノロウィルスにでも?・・蛇じゃあ手も洗えねからねぇ?」
隠「スサノオが触診してみると、腹の中に異物があるようだった」
八「異物?もしかして癌かなんかで?」
隠「そう思ったスサノオは蛇の腹を開いて手術をすることにしたんじゃ」
八「手術ですかい」
隠「麻酔代わり酒を飲ませて眠らせ、腹を開いてみると何と剣が一振り入っていた」
八「もしかしてそれが例の?」
隠「後にあめの叢雲の剣と名付けられたものじゃ」
八「オロチが剣を飲んでいたんですか。で、手術は成功って訳ですね」
隠「ところがそう旨い具合にはいかんのだ」
八「アッシが何か言うと反対するんじゃありませんか。へそ曲がり!」
隠「ヘソが曲がっていたのは蛇の方だった」
八「蛇にヘソですかい」
隠「太刀を獲りだす時に蛇が体を曲げたので、剣の刃に触れて頭と尻尾が離れてしまった」
八「早く縫合しなくては!」
隠「残念ながら蛇はそのまま死んでしまった」
八「死んだ!クシナダヒメは嘆き悲しんでスサノオをさぞ恨んだでしょう」
隠「そんなことはない。男と女。彼らは結婚して子供も出来た」
八「今度はいい話になりましたね」
隠「しばらく暮らしていた出雲を去って、伊勢に戻り神宮へ剣を奉納した」
八「スサノオというのは暴れ者と言われてますが、優しい神様ですね」
隠「そう。神話を書く時、少し脚色されすぎて暴れん坊扱いされたが、芯は平和な神なのだ。日本の神々で悪い神様は一人もいない」
八「成程。これで目出度し、めでたしですね」
隠「おいおい、まだだよ」
八「続きがあるんで?」
隠「あるよ。熱田神宮に祭られている剣の名前を知っているだろう」
八「草薙の剣でしょ」
隠「そう。しかし元はと言えば、あめの叢雲の剣だ」
八「それを日本武尊が東征のみぎり、お借りして行った」
隠「そう」
八「その折に相模の国の国造に騙され、野原に火を放たれ、危うく焼き殺されそうになった。そこで持っていた剣で燃え盛る草をなぎ倒し、火難を免れた」
隠「うん」
八「それを縁としてその剣を草薙の剣と名付け熱田神宮に納めた」
隠「うん。わしの言いたいことを先取りしたな」
八「いえいえ。御隠居でなくても知っている有名な話です。それとも今度も何か違うって言うのですかい。へそ曲がり」
隠「うーむ」
八「へへへ・・・勝ったな・・」
隠「八っあん。今、お前、勝ったと言ったな」
八「いえいえ、勝ったなんぞは言いません。ヨカッタって言ったんで」
隠「いや、勝ったと言った」
八「・・・」
隠「・・・八っあん。・・・お前さんその続きをご存知かな」
八「続き?」
隠「知るまいな」
八「もしかして、日本武尊が白鳥になったという話では」
隠「へへへ・・。違う、ちがう。オロチの話だぞ、白鳥なんぞではない」
八「お。勝ち誇った、いつもの顔になりましたね」
隠「オッホン。剣が納められたのを伝え聞いたオロチが熱田神宮を訪ねてきた」
八「オロチが訪ねてきた?」
隠「そう」
八「でもオロチは頭と尻尾に切り離されて縫合も出来なかったんでしょう?」
隠「その通り。だから太刀の入っていた尻尾だけが訪ねて来たんじゃ」
八「尻尾だけ?」
隠「そう。その尻尾は丁重に扱われ、剣と一緒に熱田に祀られている」
八「へぇ~本当ですか」
隠「本当・・・そう・・。八っあん。熱田神宮は何処にあるかご存じだろう」
八「知ってますとも。名古屋です」
隠「熱田神宮は名古屋、尾張の地にある」
八「へぇ」
隠「まだ判らないか。オアリ名古屋というではないか」
八「尾アリ名古屋?・・苦しい?!じゃあご隠居。もしかしてそのオロチは白蛇ではありませんか?」
隠「だとしたらなんだい?」
八「尾張名古屋はシロでもつって申します。お後がよろしいようで・・・」
隠「やられた。悔しい・・・」
八「へへへ・・」
隠「待て、まて、・・・・・。そうだ。熱田神宮の脇に有名な鰻屋がある」
八「それがどうしました?」
隠「あれはな、蛇の供養のためだ」
八「姿形は似てなくもありませんがねエ。ウナギでしょう」
隠「ウナギ供養は巳の供養だ」
八「・・・?」
隠「ウナギは身代わり。いいな、よく聞け。巳の代わり。巳代わりだ」
八「へ、へぇ~。恐れ入りやした。今年も、お後もよろしいようで」
テケテンテンテンテン・・
(2013.1)
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